呪術合戦の話

そう言えば1~2年くらい前、『呪術廻戦』の大ヒットで、「呪術」についての企画とか提案してよ~みたいな版元さんが数社ありました。残念ながら詳しくないの、●●さんがいいと思います、みたいなフワッとしたお返事をさせていただいたんですが…

でも、たしかにいろいろ拝見してますと、呪術というか修法に関わるような記述を見たりすることも結構あります。非常に偏ってますけどもね。

今、密教本の確認をしていて、レイアウト的にかなり書き直しが必要で頑張ってるんですが、『太平記』に登場する、空海vs.守敏の修法についての記述が、やっぱり面白いなあと思いました。

太平記の記述は、時代も下りますし、物語で史実ではないですが、少なくとも南北朝~室町時代の修法については、なにがしかを語っていると思います。

太平記の中で、守敏は「軍荼利夜叉の法」で、三角壇を築き、本尊を北向きにかけて修法を行っています。これは明らかな「調伏法」で、空海を調伏(降伏)しようとしています。一方、空海は「大威徳明王の法」を修します。はっきり書いてませんが、おそらく空海も調伏法を用いています。

お互い修しあっていて、勝負がつかないため、空海は一計を講じて、「空海は死んだ」という情報を流すのです。守敏はそれを聞いて、自分の行が成就したと喜んで、自分の壇を壊してしまいます。そして、その瞬間、守敏は目がくらんで鼻血を流し、心身ともに惑乱状態になって亡くなるのです。

これはまさに…呪殺……。

この暗さ。
いかにも南北朝時代…という雰囲気がしますよね。

改めて念を押してしまいますが、このエピソードは、史実上の空海には関係ない物語です。
空海という人のパーソナリティを少しでも知ると、こういう修法の用い方は、執らないだろうと思います。しかし、フィクションの中では、こういう方法をとる人として描かれてしまっているのを見かけます。それが、空海への誤解の元にもなっているのかしら…と思ったりして。

先日、本田不二雄大兄のトークイベントでも少しお話しさせていただきましたが、戦国時代の武将についての資料を読んでいると、リアルな合戦と同じくらいの熱量で、修法による呪術合戦の手配をしています。以前、戦国武将の呪術合戦について、ちょっと調べたことがあって、願文についての論文などを読んでいたことがあります。あの辺は、時間ができたらもうちょっとちゃんと調べてみたいなあ、と今日はふと思ったのでした。

そんな今、改めて楽しみにしているのは、荒山徹先生の新刊『風と雅の帝』です!
PHPさんより9/15に発売されますが、舞台はまさに南北朝。呪術合戦が繰り広げられる展開とのことなのです!
まさしく荒山先生の真骨頂。ワクワクしています。

仏像ファン必携!!神仏探偵・本田不二雄氏の最新刊登場!『怪仏異神ミステリー』(王様文庫)

日本のお寺にお参りすると、たくさんの仏像に拝観することができます。

本堂にはご本尊。ご本尊の左右には脇侍、周辺には眷属の神々。さらに境内にはいくつもお堂があって、それぞれに尊像が祀られている……。

その姿が実に多様なので、いろんな姿があるんだなあと思われるかもしれません。しかし実は、その姿がどんな容姿でどんな持ち物を持っているかなど、細かな決まりがあり、それにのっとって、造像されているのです。

しかし、その「決まり」に当てはまらない神仏像というのが、あるのです。そんな異形の神仏像を紹介して、仏像ファンに衝撃を与えたのが、本田不二雄大兄が2012年に上梓された『へんな仏像』(学研パブリッシング)でした。

私も、各地の仏像にかなりお詣りしてきたと思っていましたが、「なんだこれは?」としか言いようのない、びっくりするようなお像が紹介されており、度肝を抜かれました。

私事で恐縮ですが、今や「大兄」と慕い、妹分を自称していますが、実は本サイトで『へんな仏像』をリコメンドさせていただいたところに、本田大兄がコメントをしてくださったというのが、ご縁の始まりなのです。

その後、いろんなお寺に一緒に参拝したり、教えていただいたり、密教の本を一緒に書かないかと誘っていただいて上梓したり……と、優しい大兄には、本当にお世話になりっぱなしでいます。

そんなわけで私にとって『へんな仏像』は、思い入れの強い一冊なのですが、その名著が加筆修正・再編集してバージョンアップし、三笠書房さんの王様文庫より『怪仏異神ミステリー』として、出版されました!!

文化財に指定されているようなお像ですと、科学的分析や研究がなされていたり、それがなくても地元に伝承がたくさん残されていたりしますが、大兄がご紹介する像の中には、地元やお寺の方も「なぜ?」としか言いようのないお像もたくさん含まれています。

まさに「神仏探偵」の面目躍如。「なぜ、そんなお姿なのか」という問いに、大兄の博識と豊富な経験から、推理の翼をはばたかせて、読み解いていかれます。その世界は実に多様で濃密。そして本当に豊かです。

ちなみに、私にとって、最も印象深いのは、南房総市・真野寺の「覆面観音」です。観音菩薩像が面をしているという、不思議な像容なのです。

観音菩薩は、特に慈悲の化身として大人気の尊格ですから、基本的に慈悲深く、優しい菩薩です。しかし、このお像のは、霊験力が強すぎて、参拝者に邪念があると非常に強い仏罰を与えたんだそうです。これは、観音さんのイメージから、相当隔たりがありますよね。

そして、その強すぎる霊験力を和らげるために、行堂面をかぶせたところ、優しく慈悲深いほとけになった…というのです。

なるほどね~、といったん頷いてしまいますが、やっぱり、いろいろとおかしい。慈悲の化身・観音さんが、荒ぶる神のように表現されています。これではあべこべです。例えば、霊力の強すぎる神像があって、その力を抑えるために、観音さんの顔の面をかぶせたところ、優しいほとけになった…というのなら、つじつまが合うのですが……。

さて、神仏探偵の推理や、いかに!?

このほかにも、数多の「怪仏異神」が紹介され、推理されています。ぜひ、お手に取ってその濃厚な世界を味わってくださいね! 仏像ファン、必携ですよ~!

          * * *

さて、そんな大兄のイベントに、お呼びいただきました!

8/26(土)19:00~ Readin’ Writin BOOK STORE (最寄り駅:田原町)
「神仏探偵」は、いったい何を探偵しているのか? 『縄文神社』の筆者とともに語り合う 神仏世界の歩き方 | Peatix

お席の方は、ありがたいことに満員御礼とのことですが、オンライン視聴も販売されています。ご興味のある方は、ぜひのぞいてみてくださいまし!

新刊『怪仏異神ミステリー』をはじめ、『ミステリーな仏像』『神木探偵』『異界神社』(駒草出版)について、いろいろとお話うかがうとともに、武藤の『縄文神社』のお話もさせていただく予定です。神仏の濃ゆいお話で盛り上がると思いますので、ぜひお楽しみに!

(むとう)