仏像にもっともっと会いたくなる!『仏像に会う』西山厚著(ウェッジ)

長年お世話になっております西山厚先生が、ついに仏像の本を上梓されました!

奈良博さんで学芸部長として八面六臂のご活躍をされていたころから、お忙しいことは重々承知ながらも、どうか先生の「仏像の本」を作ってください、ファンとして待望しております!と言い続けてまいりました。そんな私にとって、まさに待望の一冊です。

さすがです。さすがとしか言いようがない。
何がさすがかと言うと、本文から少々以下、抜萃させていただきます。

ーー【時代分け】
時代分けは政治史が基準となるので、ここでは厳密に考えなくてもいいと思っている。(中略)まず仏像と出会うことが大切で、それぞれ自由に感じていただけたら、それでいいと思っている。

冒頭で、こういうことを言って下さるわけですよ。このスタンスは、西山先生ならではで、その教えに、私も多分に影響を受けています。学術的な側面はもちろん大切かもしれないけれど、それよりなによりまず「心で仏像と出会う」。その大切さを先生はずっと教えてくださっていますからね。

私自身の体験からしても、仏像との出会いは、理屈ではないと思います。何かぐっとくるものがある、それは、非常にパーソナルな出来事で、人それぞれ違う、大切な体験だと思うのです。仏像との出合いと言うのは、そういうことがあるんですよ、ほんとに。

先生にお話をうかがうと、そのパーソナルな出会いに、より深度が加わります。美術的にどうとか、そういうことだけではなく、その仏像がなぜそこにいるのか、その背景の物語を先生が教えてくださると、途端に奥行きが生まれるのです。

先生の講演会がいつも満員御礼で、多くの方に愛されて止まないのは、先生のお話を聴くことで、そういう体験をしたいとみなさんが思っておられるからだろうと思います。この本は、まさにそういう体験をさせていただける一冊ですね。

拝読していると私自身も大好きな仏像も多く、自分の好みが、先生と重なっていることを静かに喜びつつ、ぜひ私もお目にかかりたいと思う仏像に付箋をしました。

特に絶対会いに行きたいと思ったのは、福井県小浜市の加茂神社の「千手観音」像。小浜市は何度も訪ねていますが、こちらのお像はまだお目にかかったことがありません。

それから、滋賀県・栗東市の金勝寺の軍荼利明王像。金勝寺は一度は行ってみたいと思っているお寺さんですが、なかなか行けていません。やっぱり行かねばですね。

そして、先生の文章を読んでいると、私が大好きな仏像の皆さんにもめちゃくちゃ会いに行きたくなってしまいました。今年は一度も奈良に行けてないしなあ。今はコロナ禍ということもあって、何となく行きづらいですが、本書を読みこんで、十分に準備したいと思います。

ぜひ、仏像大好きな方も、これから仏像に出会いたい方も、お手に取ってみてくださいね!めちゃくちゃお勧めです!!

(むとう)

御神木について熱く語る(バーチャル)トークセッション開催します!【『神木探偵』by本田不二雄氏応援企画】

4月10日に発売になりました本田大兄の新刊『神木探偵』ですが、リアル書店さんの店頭で見ていただけないことを危惧し、自称妹分としては、これは何かせねば!と一念発起。バーチャルなトークセッションを開催することに致しました。

場所はFacebook上。zoomと連携させての開催です。実はすでに第1回目は「今なぜ御神木なのか」と題しまして15日に敢行、慣れない中不手際も多かったのですが、温かい皆様の支えで、どうにか進行できました。

今回のセッションは、とりあえず3回を予定してまして、第2回目は来週水曜日、4/22の夜9時より、ライブ公開しようと思っています。テーマは「御神木の凄さの理由」。ぜひ見に来ていただけたらと思います。

Facebookページ『神木探偵』トークセッション
https://www.facebook.com/shinbokutantei/

(むとう)

神仏探偵が選んだ次なる標的は御神木!『神木探偵~神宿る木の秘密~』本田不二雄著(駒草出版)

御神木を一冊の本に!?

大兄と慕う“神仏探偵”こと本田不二雄さんが、新刊を出されます!
発売は4月10日と伺っているので、ややフライング気味。でも、予約もできますからね!ご紹介させていただいちゃいます!

『神木探偵~神宿る木の秘密~』本田不二雄著(駒草出版)


いやあ、それにしてもすごい本が誕生しました。これまで巨木をまとめた本はありましたが、「御神木」となると類書はないんじゃないかと思います。

「御神木を一冊にまとめてみようと思ってる」

そんなお話を伺ってからはや数年…。これを成し遂げられたら、まさに偉業!と思い、私も首を長くしてお待ちしておりました。

実際のところ、脱稿までは大変な道のりだったようです。神社仏閣の場合、史料が在ったり、土地の研究者が書かれたものがあったりと、文字資料が期待できますが、「御神木」となるとなかなかそうはいきません。

ですから、さすがの本田さんをしても、かなりの難題だったことでしょう。担当編集の方は、さぞドキドキされたと思いますが、結果的に上がってきた原稿が、これだけ濃い内容の本ですからね。きっと納得されたんじゃないでしょうか。

大地を母体として発生する「生物の王」の風格

本書を拝見すると、引っ掛かりポイントがあまりにたくさんあり、私自身のライフワークにおける気づきもたくさんいただいてしまったので、どこからご紹介していいか本当に迷います。でもあえて最も唸ってしまったポイントを二つだけ挙げてみたいと思います。

まず第一点。それは、「御神木」となる樹種が、地方によってかなり特徴的(例えば九州は楠と杉、関東では椎、銀杏、タブ、オモテスギ、北陸ではウラスギ、中部・近畿ではケヤキ、楠が多い…といった傾向があるようなんです)で、そのたたずまいが、不思議なほどその地方の雰囲気とマッチしているということ。

例えば特に九州の楠。九州では楠が圧倒的に多いんです。もともと楠は日本全体で見ても8割が九州に分布しており、「楠木の巨樹ランキングを見ると、上位10本のうち8本が九州に在り、それらの多くは社寺の境内にある」(p11より引用)んだそうなんですね。「たくさん生えているから、御神木にもなりやすい」という言い方もできるかもしれませんが、そういう言い方では、何か違和感がある。

私は本田さんの写真を拝見していて、楠の外観や特徴などが醸し出す雰囲気が、いかにも九州とマッチしているようにと感じました。「この場所を母体として発生する生物の王」と言いたいような、超絶した風格があり、そこに、その木が「神」として大切にされてきた理由がある気がして、何やら腑に落ちるのです。

(上の写真は、日本一の巨樹「蒲生のクス」。鹿児島県姶良市蒲生八幡神社境内にある。幹回りは24.22mで根回りは33.57mと言う。想像を絶する巨大さ)

九州の御神木(楠)は、7本紹介されていますが、どれもものすごい存在感で圧倒されます。縦に伸びていくようなパワーと言うよりも、世界を巻き込んで全方位に膨張していくようなパワーに満ちているように感じます。

本田さんによりますと、楠は巨樹になると、内側が朽ちて落ち、ウロになることが多いそうなんですが、そのウロがまた大きい。上の写真を観ていただくと扉が見えますね。この扉の中はそのウロだそうで、なんと畳八畳分の空間が広がっているんだそうです。そんな空間(外界)を抱え込んでなお、膨張し続ける生物--そんな感じがして、まさに神にふさわしい!と感心してしまいます。神、というか、「世界樹」って感じですね、ほんと。

自然発生だけではない?「御神木」ネットワーク

そしてもう一つのポイントは、「御神木」の発生に、人間の手が介在している場合がある、というお話です。この視点は、誰も言ってこなかったんじゃないかなと思うんです。さすが本田さん!

全方位に膨張していくような楠に対して、高く空に向かって突き上げていくような樹種の代表と言えば、杉ではないかと思います。この杉もご神木になっているのをよく見ますね。九州でも、杉は御神木として大切にされています。

本田さんは、その御神木となっている杉(特に800年以上の樹齢のもの)が、実は同じ杉を分けたもの(クローン)だったという記事を発見。そこから、関東までつながる「御神木ネットワーク」の物語が紡がれます。

細かいお話は、ぜひ本文を!と思いますので、この辺で切り上げますが、めちゃくちゃ面白かったですよ!

聖なるものを分霊するという方法は、実は日本の信仰世界では、お馴染みのやり方です。「勧請(かんじょう)」する、とか、分祀するとも言いますね。神は分けられるんです。御神木も、ある意味そういう発想で分けられたのかもしれない、なんて私も思ったりして…。

さてさて、ご紹介のつもりが、ずいぶん長くなってしまいました。

上にご紹介したのは、たまたま九州に偏ってしまいましたが、そんなテンションの濃さで全国の御神木を紹介しています。その数なんと69柱!!!

つまりは、ものすごく濃い一冊です。最初から通読するのが、もちろん一番いいだろうとは思いますが、気になる項目から読み始めるのもありかも、と思います。自分が住んでいるエリアの御神木から読むのもおすすめです。私は本書を拝読して、新しい視点を一つ、いただきました。今後は、旅する中では、御神木をしっかり見なくちゃと思ってます。今から次の旅が楽しみでなりません。

(むとう)