大塚先生の包容力のハンパなさに感動/『弱き者の生き方』読感

最近時間を作っては五木寛之さんの近刊を読んでいます。

近刊、と言ってもここ20年に刊行されたもの、なので、近刊っていっていいのかわからないくらいの分量があります。なので、なかなか先が見えない状態^^;。…修行みたいです。

さて、そんな中、先日のシンポジウムでその存在のあまりのラブリーさに打ちのめされた大塚初重先生との対談本『弱き者の生き方』があったので、手に取りました。

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もともと、五木先生はいろんな分野の第一人者と対談をされて本として出版される、というのはよくやられてますし、とても面白いのですが、この一冊は、その中でも飛びぬけてすごかった!!

まず、五木先生執筆のまえがきで、「あうっ」とあつくこみ上げるものがあり、ヤバい、なんかこの対談本違うぞ、と思いました。

五木先生は、大塚先生を「絶望におちいるのでもなく、希望にすがるのでもなく『微笑みながら往く』人」と評されます。

ムムム。なんて素晴らしい表現なんでしょうか。さすがだなあすごいなあ。

いやもう、本当にそういう経歴なのです。

大正生まれで、太平洋戦争にも17歳で従軍され、乗っていた輸送艦が潜水艦に撃沈されて九死に一生を得た経験を持つ…

と、ここまでは、すさまじいですけどない話ではないと思います。

でも、その時のことをつつみかくさず五木先生に語るのですが…

「足にしがみついてくる戦友を、私は両脚で燃えさかる船底に蹴り落としたんです。船底からは海軍の下士官のピーピーという笛の音が聞こえてくる。助けてくれという笛の音が…」

「私も甲板に上がってから大腿骨が折れて動けなくなった戦友を抱きかかえて助けたりはしそてるんです。だけどその時は船底が燃えていたんです。そこに落ちればあっという間に死ぬわけだから。その恐怖たるや。無我夢中ですよ。…(中略)…冷静になってから、おれの足にしがみついてきたあの兵隊は軍属たちは助かったか、たぶん亡くなっているな、と思うと、その感情は名状しがたいです。人殺しですから」

自分を「人殺し」だという大塚先生。

その大塚先生を前に、五木先生もいつに増して、何かこう、開いていくような感じがするのが、文章を見ても伝わってきます。

インタビューのお上手な方ですから、ほかのご本では場合によってはそういう意味でテクニカル的にすごいなあ、と思うところも感じないわけではありませんが、このお話を聞いた以降の五木先生は、いつになく言いにくい部分まで饒舌にご自身のことを話され…。

本書を読むにつれ、大塚先生の赤裸々な告白以降、五木先生の心が少し温まっていくのが感じられます。そして五木先生も、ほかの本では言ってこなかった引き揚げの時の体験を語ったりしますが、その語りは、間違いなく正しく受け止めてくれるであろう存在(大塚先生)がそこにあるからこそ、そこまで語れるんだ……と思ったのです。これだけ大きな人を、さらりと受け止めてしまう大塚先生の包容力ハンパないっていいますか…。

なんと言いましょう。

大塚先生が、どうしたあんなにラブリーなのか、本当によくわかりました。あのあたたかさが、何から来ているのか。

先だって、私は「まるで生き仏みたいでした」とかきましたが、本当にそういうことなんじゃないかと思うんです。

地獄を見てきたからこそ、あがいてきたからこそ、『微笑みながら夜をゆく』からこそ、あのラブリーな佇まいがある。

五木先生流に言えば「悪を抱えて生きる」からこそ、そこに光がある。人にも優しくなる。…そしてその光ややさしさは、ほかの誰かの「救いの火」になったり、道しるべになったりする。それは仏教的に言えば、「菩薩」のように。まさに生き仏ですよ!!

いやあ、本当に感動してしまいましたよ~~。

ぜひ、まだ読んでおられない方、手に取ってみてください!おすすめです!!

吉田戦車さんの『おかゆネコ』、最高です!

漫画家・吉田戦車さんの『おかゆネコ』の2巻目が、昨年年末に出版されました。
あまりにも面白いので、こちらでもご紹介させてください。

この『おかゆネコ』。私は戦車さんの新境地を見る思いで拝見しております。

新境地、と言ってもだれにもまねできない「戦車さんワールド」感はそのままなのですけど…。
ある意味、漫画だけでなくエッセイなども含め、ここ数年で戦車さんがやられてきたことがここに結晶化されているような気がします。

「ほぼ日」の掲載を本にまとめた『逃避めし』。

戦車さんの子育て漫画『漫画おや』

それらにあった、戦車さんの日常に広がる普通だけどやっぱり戦車さんワールドな面白さ。

そう言うものが結晶化したのがこの『おかゆネコ』なんじゃないか、と思うのです。

おかゆネコ

「おかゆ」プラス「ネコ」ですよ??!

こんな組み合わせ、戦車さん以外に考えられますでしょうか、っていうか作品として面白くてちゃんとエンターテインしたものにし、なおかつ連載できますでしょうか!?

本当に、天才っ!!

ここでざっくり、『おかゆネコ』の内容をご紹介しますと、『おかゆネコ』こと、「ツブ」は猫なんですけど「しゃべり病」という奇病に罹患して、人間並みの知能と言語能力を持った猫。

不摂生な生活を送るサラリーマン(30代前半)・八郎のために、毎日おかゆを煮ています。

なぜ「おかゆ」かというと、そこがまた戦車さん流のシュールさなのですけど、
ツブは八郎のお祖母さんからおかゆのテクを学んでおり、おかゆをとても上手にフレキシブルに作れます。

この、八郎とツブを中心に、小さくも大きなストーリーが毎回くりひろげられ、最後に必ずツブがおかゆを煮てくれてお話が終わる、という流れです。

脇を固める登場人物もめちゃくちゃ面白い。同じくしゃべり病にかかっているキリマンジャロ寺のライオン和尚、「おかずイヌ」のガツ。
八郎の上司で猫好き・中年格闘家の多田課長。八郎のことが好きだけどかなり変な女性研究員・俵さん。八郎が勤めるコトリビールの社長目白さんは、おかゆのことをやる気がないやつの食べるものだ、と言ってツブをバカにしたりします。

なんかもう、こういう人たちがまたたまらなくいい!!のです!

何度読んでも、じんわりといい、面白い。
そしてなんだか、癒されるのです。読んでいるうちになにかほんわかしてきます。

これぞ、まさに『おかゆネコ』の効用ってやつでしょうか!!

体と心が何となく疲れてるな、と感じたらこの一冊!おかゆネコで一息つきましょう。
めちゃくちゃお勧めです!

 

2014年、新年のご挨拶。

年賀2014

やってきました!!2014年!!!
今年はどんなことがおこるんでしょう。

嬉しいことも、悲しいことも、つらいことも…
きっといろいろ起こってくるんだろうと思いますが、そのすべてを楽しめたらいいなあと思う、元日の夜……。

本年もまた、いろんな方やさまざまなものと出会い、そしてその喜びや驚きを皆さんにご報告し、できれば一緒に一喜一憂させていただけたらと思っております!

そんなわけで、みなさま。

どうか本年もお付き合いのほど、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

ありをりある.com  編集長   むとういくこ 拝