file.59 銀座文明堂の「森幸四郎のどらやき」

いちにちいちあんこ

文明堂さんと言えば、カステラ。ですよね。

「カステラ一番、電話は二番、…」のCMソングは子供のころの定番。カステラと言えば文明堂、とインプットされています。

どちらかというと、庶民的。手の届くご馳走って印象ですが、数年前、京都の伝統工芸士の先生と銀座で食事をご一緒した時に、奥さまが「ちょっと文明堂に寄りたいの」とおっしゃる。

美食家の奥さまが文明堂?と、失礼ながら驚きましたが、そんな私を見て奥さまは「こちらの極上カステラは、それは美味しいの。東京でしか買えないのよ」、と微笑まれました。

その時奥さまが買ったカステラは、一本6000円くらいしたと記憶してます。

とと、今、文明堂さんのサイトを見ると、一番高いカステラは3990円なので、私の勘違いでしょうか?あれ??

あ、これひょっとして…と思って確認しましたら、私が見ていたのは「文明堂 東京」のHPでした。奥さまが立ち寄ったのは「銀座文明堂」です。間違いました^^;。
#文明堂さんは、暖簾分けで複数あるんです。

…と探してみると、あったあった!

6300円のカステラ!これです!!

「天下文明極上カステラ」。

そうそう、これですよ!
「カステラ一本6000円!?」と庶民な私は度肝を抜かれました。

……さてさて。

そんな思い出から、強引ですが今日のいちあんこでございます。

実は、この銀座文明堂には「食の人間国宝」と呼ばれる、「フードマイスター」の称号を与えられた職人さん「森幸四郎」さんがおられます。
#この、フードマイスターというのは、農林水産省が優秀な製品を作る伝統を守り続けている最高の製造技術者に与える称号なんだそうですね。

この「天下文明極上カステラ」も、この森幸四郎さんの長年の集大成ともいうべきレシピで作られてるんだそうです。やっぱり一度食べてみたいなあ。

さて、ちょっと敷居が高い極上カステラですが、私にも手の届く「森幸四郎」さん作品があります。それが本日の…
どらやき どらやき!!
です。一個210円。手が届きますね。

実は、東京駅の大丸で「森幸四郎」というお店で出されており、あんこ好きの間では前から評判で。ぜひとも一度食べてみたいと思っていたのです。

どらやき

封を開けてみますと、おおお、なんか香ばしい香り!!
普通のどらやきとはちょっと違います。生地もしっとりしているのが見ただけでわかります。

どらやき

横から見るとお分かりいただけますでしょうか。普通のどらやきよりも少し油分もあるのかな。しっとりしてますし、また、周囲に生地のこげの部分がヒラヒラついてます。これも普通とは違う。

どらやき

割ってみますと、この生地の部分、見てください!気泡のような部分がかなり多くあります。この生地は、和菓子のどらやき、というよりはやはり少し洋菓子っぽいテクスチャーなのです。しっかりと焼しめたパウンドケーキのような…。

食べてみますと、…やっぱり香ばしい!
カステラの茶色い部分って、キャラメリゼされた風味で少し苦みがあっておいしいですよね。全く同じではありませんが、遠くに共通点があります。

そして、醤油の風味も効いてます。遠くにですけど、確かにあります。

それから、卵が強い!

普通のどらやきより卵の量が多いんじゃないでしょうか。

これぞ「カステラ職人のどらやき」です。森さんの、まさにご自分の出自を語る逸品ですよ。

あんこは、甘さ控えめでほっこりしています。とても美味しいあんこですが、ここではわき役に徹していますね。主役はあくまでもこの生地です。

個人的には、上野うさぎやのどらやきのほうが王道だと思います。あれこそ和菓子のどらやきの最高峰でしょう。こちらのどらやきは、カステラ職人の心がこもった一品で、ある意味別物と思います。

なんか感動しちゃいました。ここに道あり、ですよ。

銀座文明堂
http://www.bunmeido.com/

 

 

 

 

 

 

大塚先生の包容力のハンパなさに感動/『弱き者の生き方』読感

最近時間を作っては五木寛之さんの近刊を読んでいます。

近刊、と言ってもここ20年に刊行されたもの、なので、近刊っていっていいのかわからないくらいの分量があります。なので、なかなか先が見えない状態^^;。…修行みたいです。

さて、そんな中、先日のシンポジウムでその存在のあまりのラブリーさに打ちのめされた大塚初重先生との対談本『弱き者の生き方』があったので、手に取りました。

20140201

もともと、五木先生はいろんな分野の第一人者と対談をされて本として出版される、というのはよくやられてますし、とても面白いのですが、この一冊は、その中でも飛びぬけてすごかった!!

まず、五木先生執筆のまえがきで、「あうっ」とあつくこみ上げるものがあり、ヤバい、なんかこの対談本違うぞ、と思いました。

五木先生は、大塚先生を「絶望におちいるのでもなく、希望にすがるのでもなく『微笑みながら往く』人」と評されます。

ムムム。なんて素晴らしい表現なんでしょうか。さすがだなあすごいなあ。

いやもう、本当にそういう経歴なのです。

大正生まれで、太平洋戦争にも17歳で従軍され、乗っていた輸送艦が潜水艦に撃沈されて九死に一生を得た経験を持つ…

と、ここまでは、すさまじいですけどない話ではないと思います。

でも、その時のことをつつみかくさず五木先生に語るのですが…

「足にしがみついてくる戦友を、私は両脚で燃えさかる船底に蹴り落としたんです。船底からは海軍の下士官のピーピーという笛の音が聞こえてくる。助けてくれという笛の音が…」

「私も甲板に上がってから大腿骨が折れて動けなくなった戦友を抱きかかえて助けたりはしそてるんです。だけどその時は船底が燃えていたんです。そこに落ちればあっという間に死ぬわけだから。その恐怖たるや。無我夢中ですよ。…(中略)…冷静になってから、おれの足にしがみついてきたあの兵隊は軍属たちは助かったか、たぶん亡くなっているな、と思うと、その感情は名状しがたいです。人殺しですから」

自分を「人殺し」だという大塚先生。

その大塚先生を前に、五木先生もいつに増して、何かこう、開いていくような感じがするのが、文章を見ても伝わってきます。

インタビューのお上手な方ですから、ほかのご本では場合によってはそういう意味でテクニカル的にすごいなあ、と思うところも感じないわけではありませんが、このお話を聞いた以降の五木先生は、いつになく言いにくい部分まで饒舌にご自身のことを話され…。

本書を読むにつれ、大塚先生の赤裸々な告白以降、五木先生の心が少し温まっていくのが感じられます。そして五木先生も、ほかの本では言ってこなかった引き揚げの時の体験を語ったりしますが、その語りは、間違いなく正しく受け止めてくれるであろう存在(大塚先生)がそこにあるからこそ、そこまで語れるんだ……と思ったのです。これだけ大きな人を、さらりと受け止めてしまう大塚先生の包容力ハンパないっていいますか…。

なんと言いましょう。

大塚先生が、どうしたあんなにラブリーなのか、本当によくわかりました。あのあたたかさが、何から来ているのか。

先だって、私は「まるで生き仏みたいでした」とかきましたが、本当にそういうことなんじゃないかと思うんです。

地獄を見てきたからこそ、あがいてきたからこそ、『微笑みながら夜をゆく』からこそ、あのラブリーな佇まいがある。

五木先生流に言えば「悪を抱えて生きる」からこそ、そこに光がある。人にも優しくなる。…そしてその光ややさしさは、ほかの誰かの「救いの火」になったり、道しるべになったりする。それは仏教的に言えば、「菩薩」のように。まさに生き仏ですよ!!

いやあ、本当に感動してしまいましたよ~~。

ぜひ、まだ読んでおられない方、手に取ってみてください!おすすめです!!