About 武藤 郁子

神仏・聖地探訪家。編集者兼ライターとして神仏や聖地、歴史や自然をテーマに活動中。著書に『縄文神社 首都圏篇』(飛鳥新社)、『縄文神社 関東甲信篇』(双葉社)、共著に『今を生きるための密教』(天夢人)がある。2024年6月『空海と密教解剖図鑑』(エクスナレッジ)を上梓。

生きるって大変、でもやっぱりいいもんですよね…。『男はつらいよ 寅さんの人生語録・改』/山田洋次・朝間義隆作、寅さん倶楽部編(PHP文庫)

ついに今月の27日、第50作めが公開!

『男はつらいよ』シリーズが始まったのは、1969年。そして、主演の渥美清さんが生前出演された最後の作品(48作)が公開されたのが1995年。つまり26年間も毎年欠かさず公開され続けたということになります。本当にすさまじいとしか言いようのない破格のシリーズです。

そして、特別篇である49作は1997年に公開され、さらに22年が経過して今年、2019年。シリーズ第50作『男はつらいよ お帰り 寅さん』が、12月27日に公開されます。

そんな記念すべき今、『男はつらいよ 寅さんの人生語録・改』が刊行されました!

本作は1993年に同じくPHP文庫から出版されていたものに、修正・再編集し、「改」として再出版したものです。一度出版されていたものではありますが、内容に関してはかなり変更しております。というのも、元々の本は台本を元に言葉を抜き出しているのですが、今回はすべて映像から言葉を抜き出しているんです。これは、かなり大きな違いですよ!!もし前作をお持ちだとしても、こちらは買っていただいて損はないと思います!

いえ、持っている方こそ、ぜひ買っていただきたい!
編集が申し上げるのはおこがましいですけど、しかしそんなことを申し上げたいくらい、この言葉の一つ一つには、思いを込めています。何度も何度も映画にあたりながら、修正を繰り返しました。口語が過ぎて、ある意味読みづらいところもあるかもしれませんが、今回は少しでも名優の台詞の空気感、口語ならではの息遣いをできるだけ再現したかったのです。

美しい言葉の数々

今回、このお仕事をお手伝いするにあたり、作品を見直した私は、その言葉の「日本語」の美しさに瞠目しました。

マニアの皆さんにはお叱りを受けてしまうと思いますが、『男はつらいよ』は、親と見るお馴染みの映画というかんじで見てきました。しかし今回仕事として見直してみると、これが……。一応、小説などの編集の端くれとして、言葉を読む日々を送っている自分からして、思わず「これほど美しいものか…」と息をのんだのです。

そして、その言葉を表現する寅さん(渥美さん)をはじめとした俳優の皆さんの台詞・音がまた美しい。なんとすごい作品なのか、と唸りました。

こちらの本でご紹介しているほかにも、好きな言葉が無数にあります。いろんな方がおっしゃる通り、まさに名言の宝庫なのです。人によって千差万別でしょうし、精神状態によっても響く言葉は違うでしょう。それから、映画を見ているか見ていないかによっても、違ってくるんじゃないかと思います。

例えば私は、この台詞が好きでたまらないのです。↓

普通の台詞すぎますか? しかし、映画でこのシーンを思い起こすファンの皆さんにはわかってもらえるんじゃないかと思います。

この言葉は、抑制のきいた静かな口調で、丁寧に語られます。思い込みの強い泉の義叔父さんに、腰を低めながらも、きっぱりと言う、その姿のかっこいいこと。そしてその言葉の美しいこと。

うーん、これはやっぱり映画を見てほしいなあ。音も聞いてほしい。

そして、こちらの名言も好きです。これは映画を見たことがなくても、なにかこう、ぐっとくるものがあるのではないかと思います。

ちなみに、一緒に編集を担当してくださったN編集長はこの名言が大好きだとおっしゃってました(そしてオビ裏に選んでらっしゃいます)。わかるわ~。

…と書いてきて、ふと気づきました。私ときたら計らずとも、「伯父と甥」の言葉を二つ選んでますね。別に狙ったわけじゃないんですが、私はこの二人の優しい関係が好きなんだってことでしょう。

『愚兄賢妹』

それから、名言としては今回上げていませんが、さくらの「お兄ちゃん!」と呼びかける声が大好きです。

もともと『男はつらいよ』は『愚兄賢妹』という仮タイトルで、TVドラマ放送寸前に『男はつらいよ』となったという有名なエピソードがありますが、最初のタイトルというのは、やっぱり本質を表していると思います。『男はつらいよ』は、寅さんとさくらの物語なんですよね。

そう言う意味でも、今回オビにさくらこと、倍賞千恵子さんにお言葉をいただけたのは、本当にありがたいことでした。渥美清さんの写真、倍賞さんのお言葉、山田洋二監督と朝間義隆さんのお名前が並んでいる様子は、何とも正しいように思います。

本書は、『男はつらいよ』という大海を映し出すにはあまりに限りある小さな一冊ですが、しかし、作品の素晴らしさの一端を確かにお伝えできる一冊になっているんじゃないかと思います。本書をお手に取っていただいて、その言葉の美しさをぜひ知っていただけたらと思いますし、そして、また映画を見ていただけたら、これ以上嬉しいことはありません。

そして、新作『お帰り 寅さん』もぜひぜひご覧ください!

私は役得で試写会で拝見しましたが、胸がいっぱいになりました。第50作をご覧になってからまたこの本を見ていただくと、「あっ」と思っていただけるかもしれません。

最後になりますが、大変お世話になりました松竹さまのご担当Kさん。そして、寅さんを愛してやまないN編集長に、改めまして御礼申し上げます。N編集長が「今寅さんに出会い直すことは、ムトウさんの人生にとって大きな意味があるよ、絶対に」と言って下さったこと、本当におっしゃる通りだった、と今感じています。

(むとう)

いよいよ新連載『フカボリ山の文化論』スタート。「文化系アウトドア」絶賛推進中!!/YAMAP MAGAZINE

11月26日に始動した「YAMAP MAGAZINE」さんにて、新連載がスタートしました!

「YAMAP」さんは、登山用地図アプリでシェアナンバー1。そんな場所ですから、いつまでも初心者の私は、刺身のツマみたいなもんです。何しろ「文化系アウトドア」ですからね。本意気の皆さんからは鼻で笑われても仕方ないヘナチョコです。

しかし私は、そうとう本気で「文化系アウトドア」を推奨したいと思ってます。山を愛する皆さんに、山に残された日本の文化や歴史に気付いてもらって、もっともっと面白がってほしいと願ってやまないのです。

そんなわけで連載タイトルは『フカボリ山の文化論』。
第一回は、「高尾山と天狗と修験道」大好きな高尾山!!

(高尾山名物、天狗焼き。めちゃ美味しい)

いやあ、今回の連載は、本当にワクワクしてます。というのも、担当してくれているSさんは、私が以前所属していた出版社の友人で、所属中もやめた後もともに旅を重ねてきた友人だからなのです!!

探検部出身で、濃ゆいもの面白いもの大好きなSさんとは、入社してすぐ意気投合。TVディレクターをしているSさんのパートナーKさんとも、バッチリ気が合いまくって、様々な場所を一緒に旅してきました。私がどんな人間か、どんなことを話したがるかをよく知ってくれている友人が、新しい職場で、新しい媒体を立ち上げる、そしてそこで書いてほしいと言ってくれた時、私はもう諸手を上げて「諾!!!」と叫びましたよ。こんな楽しいことはありません。

今回ご紹介する高尾山も、何度いっしょに行ったことか。それどころか、Sさんは高尾山の周囲にある山の管理をしている団体にも所属しているので、その林業の活動にも何度も混ぜてもらってますから、とても縁の深い場所です。そんなわけで一番最初はやっぱり高尾山だなと、すぐ決めちゃいました。

1ヶ月に1回、だいたい26日前後の公開になります。ちょっと間はあきますが、たのしく書いていきたいと思います。「濃くていいからね!」と言ってもらってるので、割と濃いめに書いていっちゃいますよ!

立ち上がったばかりのサイトなので、私自身、他にどんな記事があるか初めて見たんですけど、他の執筆者の皆さんがまた本意気です。うわあ、また私浮いてる…と思いましたけど、もうそれは宿命として諦めたいと思います。

ぜひ、覗いてみてくださいね~!

最後になりますが、今回も高尾山薬王院様に大変お世話になりました。改めて御礼申し上げます。

(むとう)

決然と生きられない自分。しかし「幸せ」は、その迷いの中にこそあるのかもしれない/『迷いながら生きていく』五木寛之著(PHP研究所)

「迷い」はあっていい

ご紹介が遅くなってしまいましたが、五木寛之先生の新刊『迷いながら生きていく』が出版されました!

私ごとではありますが、悩むことがあり、自信を失って途方に暮れた思いにとらわれていました。まるで人生の迷子になったような気分。まさに迷いの最中に在ったのです。こんなふうに立ち止まる自分も嫌でしたし、モヤモヤして落着かない日々を過ごしていましたが、ある日、校正紙を拝読していて、

「私は今日も迷いながら生きています。私も皆さんと同じ。すべてが初めてのことで、わからないことだらけなのです」

という一節にくぎ付けになりました。何度も目にしてきたはずなのに、この飾らない優しい言葉が、まるで立ち上がってくるように、胸を打ちました。

……先生ほどの凄い人でも、迷ったりするし、分からないことがあるんですよ!!

見知らぬ地を旅するように「新しい世界」を生きる

何を当然のことを…とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、私は目から鱗が落ちたような気がしました。

私たちは、生きている限り、ずっとこういう心境を繰り返していくんですよね。それが人間ってものなんだと。そしてそんな迷いの最中にいる自分を、もっと認めていいんだと、思えたのです。

先生は「見知らぬ土地を旅するように生きたらいい」とおっしゃいます。「わからない」ということは、不安感を招くかもしれませんが、一方で「新しいことに出会えるワクワク感」も招きます。旅はまさにそんな経験の連続ですよね。

私は「わからない」のマイナス面ばかり見て、落ち込んでいたのでした。しかし、先生のお言葉で、はっと我に返ったのでした。

いやあ、またしても先生に救っていただきました。こんな気持ちになるのは、きっと私だけではないでしょう。今回の一冊にもそんな言葉が随所に在ります!!皆さんにも、ぜひ、お手に取っていただけたらと思います。

 

オロオロして弱々しいですが、よく考えたら、私は幸運!?

それにしても、ここ数カ月の私は、相当にオロオロしておりました。そして自分の弱さを嘆いたりしていたのですが、でもよく考えたら、私ったらけっこう幸せなんじゃないの?と、ふと思いつきました。

と言うか、むしろ、かなり運を持ってます。幸運者と言っていい気がします。

そうでもなければ、一介のフリー編集が、伝説的な作家である五木寛之先生とこんなにも長くお仕事できません!!

五木先生のご本をお手伝いさせていただいて、今回でなんと7冊目。書下ろし単行本としては、5冊目になりました。先生とお会いできるというだけでもラッキーですのに、こんなにお仕事ご一緒させていただくことになろうとは……。

そう考えると、じーんとあたたかい気持ちでいっぱいになります。

改めて、いつも優しく微笑んでくださる五木寛之先生、そして困難も楽しいことに変えてくださるN編集長に、心から御礼申し上げます。次のご本も、ぜひよろしくお願い申し上げます!

(むとう)