過酷な運命の最中にも、その清冽な魂は凛として輝く!――信玄の末娘・松姫の一生を描き切った傑作歴史小説、登場!『疾風に折れぬ花あり』/中村彰彦著

文芸雑誌『文蔵』さんの連載をお手伝いさせていただいてから、約三年。

思い返すも楽しい日々でした。毎月毎月、一番初めにお原稿を読めてしまうんですもの!これぞ、まさに編集の役得ですね!幸せとはこのことです!!

そして、いよいよ。
この時がやってきた~!!と、躍り出したいような気持で一杯です。

中村彰彦先生の『疾風に折れぬ花あり』

とうとう発売されました!

装丁がまた素敵ですよね!?
華やかで女性らしさがにおい立つようなデザインです!
そして同時に、中村先生のお作らしい重厚さもしっかりと兼ね備えていますから、中村先生の往年のファンの男性も、きっとためらわず手をのばしてくださることでしょう!
こちらはあの菊地信義さんのデザインですよ!さすがとしか言いようがないです。

そして、装画は日本画家として活躍されている宝居智子さんです。ステキな日本画ですね。
特にこの手の表現!ご覧ください!
八重桜の花びらが舞い落ちるのを夢見るように見上げてます。そして自然と指先が追いかけている。そしてその指先は、まるで花弁のようにピンクに染まっているのです。
いや~、眼福眼福。

20160408

実は、この「桜」。本書にもとても大切な場面で登場します。

ちょっとネタバレになっちゃうかもしれませんが、本書の主人公、松姫さんは武田家が滅んでしまうことで、とてつもなく過酷な人生を歩むことになります。

その過酷な人生を、ともに歩んでくれたとも言える小袖があるのですが、その銘が「桜花(おうか)」というのです。桜色のとても美しい小袖です。
「桜花」は、大好きなお兄さんの奥さんが形見としてくれたもの。この「桜花」、これぞという時に松姫さんを導いてくれるような、そんな存在に思われるのですね。

名門のお姫さまだった世間知らずの松姫さんが、三歳の女児3人を育てながら、出家し、戦国の世を生き抜いていく。
何度も何度も絶体絶命といった場面がたち現れます。しかし、松姫は、涙ぐみながらも決して逃げません。一見たおやかで、素直で優しげなのですが、こころが強くなければ生き抜くことは、到底無理だったでしょう。

***

どんな人生でも、生きていくということは山あり谷あり。
楽な人生なんてないんだな、……と40過ぎて、ようやく実感を持って分かってきました。
突然ウソのような幸運が舞い込むこともある。想像を絶する不幸が襲い来ることもある。

そうしたことが起こった時、それをどう乗り越えていくのか、切り開いていくのか、それによってその人の魂のありようが見えてくるように思うのです。

とてつもなく過酷な状況の中でも、魂の輝きを失わず、まるで暗闇の灯火のように、蓮の花のように静かに生き抜く人が確かにいた――。

中村先生は、いつもそんな素晴らしい魂を、歴史の中から掬い出して、私たちに見せてくださるような気がします。

本書の主人公、松姫然り、そして保科正之公もそうです。
あれだけ魅力的な人物がいたことを、私は先生の小説で知ることができました。

そうそう、保科正之公も、本書で登場しますよ!健気でかわいらしい少年の幸松君として、ですけどね。ぜひ、お手に取ってみてくださいまし!

そして最後になりますが、中村彰彦先生、そしてN編集長さま、Y副編集長さま。
ご一緒させた時間は何もにも代えがたい、私の宝物です。
至らぬことも多々あったと思いますが、本当に素晴らしい時をありがとうございました!

(むとう)

「疾風に折れぬ花あり」(中村彰彦著)第23回「はるか江戸を離れて」掲載!

ご紹介が遅くなってしまっておりますが、毎月PHP研究所さんで発刊されている文芸雑誌『文蔵』では、中村彰彦先生の「疾風に折れぬ花あり」が絶賛連載中です。

最新号(8月号)が発売になっておりますので、7月号も併せてご紹介させてください。

20150804

7月号「祈る女」では、亡き兄・仁科盛信の忘れ形見で、養い姫の一人であった生弌尼(しょういちに)を看取った、信松尼(しんしょうに)。

ここに武田信玄の直系のうちの一人が、はかなくも夭折してしまったのですが、一方で物語は大きく動きます。

江戸城内の比丘尼屋敷に住まう、信松尼の異母姉で、信玄の次女、そして穴山梅雪の未亡人である見性院(けんしょういん)が、二代将軍の乳母・大うば様を通じて知り合った奥女中『お静』さんが、いよいよ7月号で登場しました。

この『お静』さん、中村先生ファンなら「あ!ついに!」と膝を叩くことと思います。

中村先生が、世に広めた「会津武士」の生きざまを凝縮したかのような人物で、会津の崇高な精神の源となった、会津松平家の始祖、保科正之(ほしなまさゆき)公の生涯をえがいた大作『名君の碑』の世界が、いよいよ再び戻ってきました~!

このお静さんは、もともと小田原北条家の家臣だった神尾(かんのお)家の娘で、縁あって秀忠の乳母であり、大奥の実力者である大うば様に仕えることになりました。

そこで、恐妻家の秀忠に見初められ、正室・お江与(えよ)の方の許しがないまま、秀忠の側室になりました。

意外と思われるかもしれませんが、当時、戦国時代の気風がまだ色濃く漂うこの時代、妻を複数持つことは許されていましたが、正室の許可、というか、正室が勧めた女性を側室にむかえる、という形式をとることになっていました。

ですから、いくらお江与の方の性格が苛烈で、秀忠が恐妻家とはいえ、内密に側室を迎えてしまうというのは、やはり正室をないがしろにした行為です。

そして案の定ばれてしまい、なおかつ妊娠も発覚してしまうと、お静さんは何度も毒物で殺されそうになりまして、恐ろしくなって実家に逃げ帰ります。

そこで、お江与の方の復讐を恐れた実家の兄たちの決断により、子を堕胎させられてしまうのですが…。

8月号では、堕胎薬によってぼろぼろになってしまったお静さんを、それでも戻ってくるようにと説得する、秀忠からの使者がやってきます。

さあ、お静さん、どうする!??
戻るの?戻らないの~!!???

……と、ハラハラドキドキな展開になっております。

保科正之公に詳しい皆さんは、この後の展開を良くご存じと思いますし、保科正之公という綺羅星の如く優秀な人物が誕生した、という一事を持って考えてみましたら、仕方ないけどなあ、と思います。しかししかし。

同じ女性としてみると、どうもこの秀忠という人物は、信用なりません。
いくら正室がこわいからと言っても、一番力を持つ立場なわけですから、やる気になったらもっと守れるはずなのに、なんか逃げてるようにしか思えない。

やめときなはれ、戻らないほうがいい!!!
この男、真心を感じないダメなやつだよ!

……と、お原稿拝読しながら、思わず叫んでしまいました。

ちょっと感情移入しすぎましたね(笑)。
それはともかく、これからの展開はいよいよ目が離せませんよ~~!

ぜひお手に取ってみてくださいね!

(むとう)

「疾風に折れぬ花あり」(中村彰彦著)第21回「祈る女」掲載!

ご紹介がすっかり後手後手になってしまっておりますが、毎月『文蔵』では、中村彰彦先生の「疾風に折れぬ花あり」が絶賛連載中です!

最新号(6月号)が発売になっておりますので、ご紹介していなかったその前のものも併せてご紹介させてください。

20150510

本連載主人公は、武田家滅亡後、八王子まで逃げてきて出家した松姫こと、信松尼さん。

次から次へと襲い来る困難にも、たおやかに柳のようにしなやかに切り抜け、無事に養い子三人も育て上げました。

そして今や40代半ば。

自立のため、たつきの足しにと考え始めた養蚕だけに飽き足らず、染色、織りまでも学ぼうとしている姿が生き生きとえがかれます。

本連載で中村先生が描き出される「信松尼」というひとは、一見、絵にかいたような「良家のお姫様」といったたおやかで優しげな風情ながらも、その魂には父・信玄の豪胆さを受け継いだ女性です。これと決めたらやり通す、という意志の強い凛とした人。

いっぽうで、いくつになろうとも、無垢で世間知らずな一面もそのままな人、でもあるのです。
そして、そういう面もまた彼女の魅力でもあり、そんな彼女を助けようと一生懸命動いた人たちがいたことが大きいということも事実。

そこで、そんな人たちの中でも、特に重要な人物が、大久保十兵衛こと「大久保長安」です。

このひとは、一般的にどうしても金と女の話が先行し、「怪人物」といった印象の強い人ですが、先生が描き出すのはそれとは真逆ともいえるような、「目配りの大きい、まことに行き届いた」といった印象の人物です。

そして実際、信松尼さんにして上げた史実上のことを合わせて考えましても、長安さんという人の実情は、本作品に登場する「十兵衛」さんに近いのではないのかしら、と思われてきます。

中村先生のお作には、これぞ「歴史小説」という、非常に高度な史料の裏付けによる「中村流読み解き」があります。毎回「なるほど!」と目からウロコ。

ぜひ、お手に取ってみてくださいまし!

(むとう)