About 武藤 郁子

神仏・聖地探訪家。編集者兼ライターとして神仏や聖地、歴史や自然をテーマに活動中。著書に『縄文神社 首都圏篇』(飛鳥新社)、『縄文神社 関東甲信篇』(双葉社)、共著に『今を生きるための密教』(天夢人)がある。2024年6月『空海と密教解剖図鑑』(エクスナレッジ)を上梓。

【関西旅】⑤植治七代目の仕事に出会う「慶沢園」/『山の神仏』展@大阪市立美術館

さて、『山の神仏』展は、想像していた通り濃厚な展示で、私はへとへとになってしまいました。余力があったら動物園にもよろうかな、なんて思っていたのはやはり無理がありましたね。

気温も急に上がったことも理由かもしれません。園内にある喫茶店で冷たいお茶でも飲んで一休みしたら、素直に京都に向かおうかしら、と思いながら、美術館を出てふと左手に歩いていると…

「慶沢園」

といういわくありげな扁額を掲げた門があります。

そういえば、この大阪市立美術館は、住友本家の本宅を寄贈したものです。だとしたら、当時最高の庭師が入ったに違いないですよ。

少々熱中症気味の痺れた頭を、どうにか動かしながら、ちょっと説明書き読んで見るかどうか決めよーっと、とよれよれしながら説明書きを見て、一気に目が覚めました。

「小川治兵衛作庭による…」

ええええ!!植治(うえじ)じゃん!!???

いやあ、ほんとすみません。油断してました。今回はとにかく「山の神仏」展を見に来たので、そのほかのリサーチはしてこなかったんです。危なくもったいないことをするところでした。

慶沢園 うっほ~!この第一歩からして、治兵衛サンっぽいわ~!石橋から眺めるこの池の美しいこと。まずは「光」のアプローチ、って感じ。残念ながら曇りでしたけど、それでも植栽に植え込んでいるツツジや花菖蒲なんかが美しく色を添えてくれてます。一雨来た後にこの光景を見れたらさらにベストだったなあ。

さて先ほどから連発してますこの「小川治兵衛」さんというのは、京都に江戸時代中期から続く植木屋・造園業者「植治」の七代目。1860年生まれですからぎりぎり幕末生まれ、明治から昭和にかけて大活躍した名作庭家です。

庭園研究家の泰斗・尼崎博正先生をして、
「日本の庭園史上、特筆すべき造園家が三人いる。中世の夢窓国師、近世の小堀遠州、そして近代庭園の先覚者、植治こと7代目小川治兵衛である。」(『植治 七代目小川治兵衛』京都通信社刊より引用)

と言わせしめているお方。あの夢想国師、小堀遠州と並ぶと、尼崎先生がおっしゃるんですもの、まさに庭園史上の「巨人」です。
20140621-1(上の本は私のバイブル。写真も美しくて素晴らしい一冊ですよ!!)

「かれらは独自の自然観、美意識、造形感覚を提示しつつ、新しい時代を切り開いていったという共通点を持つ」(同書から引用)

確かに夢想国師は平安時代の庭では表現しきれない新しい世・鎌倉時代を代表する作庭を行い、それ以降の作庭を決定づけましたし、小堀遠州も安土桃山時代の華やかさを継承しつつも、近世らしいより開かれた空気感のある方向性に、江戸初期以降の作庭を方向づけました。そして、小川治兵衛さんも江戸時代から明治期という、それまで支配者にはなりえなかった階層のひとたちが貴顕の士となった時代の写実的で開明的な作庭を方向付けました。
慶沢園

(手前は四阿。こういう四阿から池、植栽の広がりってのがまた絵になりますねえ)

この7代目植治さんの代表的なお庭と言えば、山縣有朋邸の無鄰菴(京都)、円山公園、平安神宮神苑などがあります。どのお庭も、ほんっと~~~に素晴らしいので、ぜひまだご覧になったことがない方は、観に行ってください。特に、治兵衛さんのお庭は「体感」することが大切。ただ眺める庭ではなく、実際に回遊して「五感」で感じるようにしているお庭なんですね。
慶沢園(四阿から眺めた池。手前には睡蓮、奥にはツツジがきれいに咲き始めてました)

また彼は「水と石の魔術師」なんて呼ばれたりしてます。とにかく水の使い方、石の使い方がかっこいい!!
特に石橋や、飛び石の絶妙さは、素人の私でもワクワクしてしまいます。平安神宮の飛び石「臥竜橋」なんてもう、絶妙すぎて動揺して池におちそうです。
慶沢園(この石橋なんかも、治兵衛さんぽいんですけど、なんか微妙に管理が心配^^;)

こちらの慶沢園も、いかにも治兵衛さん作庭のお庭という雰囲気が随所に残っています。回遊しながら水のせせらぎ、四阿の陰翳から、眼前を広がる明るさを感じて崎には邸宅が臨める、と。
慶沢園(洲浜のようなエリアから飛び石、水のあるエリア、島へのアプローチ、そしてその先には本邸背面。この絶妙な連結感!)

それにしても。
和のお庭にもかかわらず、その自然主義的なデザインは、洋館との相性もばっちりです。本当に不思議なことですけど…。

今回、帰宅してから、改めてこの本を開いて読んでみて、つくづく思いました。わたしは治兵衛さんのお庭がすきだ!!・・・と。

今回の出会いを、きっかけに、これから重点的に治兵衛さん作庭のお庭を見て廻ろうかしら。

それにしても、大阪市立美術館、そして慶沢園、今回かなり無理やりスケジュールに入れこみましたが、本当に行ってよかったです!

file.71 かぎや菓子舗の「中葉」

いちにちいちあんこ

さて、前回に続いて、今回も滋賀県日野町で見つけた和菓子屋さん、かぎやさんで購入したお菓子。

「中葉」です!

中葉 

……前回に引き続き、日野町が誇る名族・蒲生氏中興の祖、貞秀さんのお墓の前の日陰からお送りしております。地べたにじか置きです。すみません。

この「中葉」、たぶん「ちゅうよう」と読むんだと思います。お店の人がそんな風に呼んでいたような気がするのです。ちょっと自信がないのでネットで検索してみたりしましたが、発見できませんでした。

このひとパックで250円。リーズナブル~。

中葉一個の大きさはこんな感じ。二口で食べられるくらいの大きさですね。
中葉クレープ状の皮の中に粒あんが入っていますよ。

中葉割ってみるとこんな感じです。

生地は、なんとお味噌が入ってるそうで、食べてみると程よいお味噌の塩気と、コクがあり、モチっとした食感がいい感じ!味噌の配合のバランスが絶妙だからだと思いますが、キャラメリゼしたみたいな香ばしさも感じますよ!

小麦粉だけではなくて、餅粉も入ってるのかなあ。

あんこは、これまた品の良い甘味で美味しい!味噌のコクと粒あんのほっこりした感じがとてもよくあってます。

うううむ、これも美味しいなあ。

この前にご紹介した「いがまんじゅう」もそうなのですが、非常にシンプルでみんなが知っている素材で作られているお菓子なんですけど、丁寧に気配りをして作られたらこんな風に一段上に上がってしまうんだよなあ、お料理ってやつは…と思いますね。

素晴らしいなあ。
(続く)

かぎや菓子舗
http://tabelog.com/shiga/A2503/A250302/25003922/

 

file.70 かぎや菓子舗の「いがまんじゅう」

いちにちいちあんこ地方に旅するとき、何より楽しみにしているのは、その町ならではの伝統菓子をいただくことです。

自分で言うのもなんですが、その町で古くから続いている和菓子(お菓子)やさんを見つける才能だけは、飛びぬけて「ある」と思います。普段は小心者ですから自信があるなんてまず思いませんが、これだけは、けっこう大きな声を出して言えます。

野原を歩いているときなど、哺乳類や爬虫類の気配はすぐに察知することができるのですが(虫はいまいち察知できない)、その生き物の気配を察知するのに反応する部分を使って、和菓子屋を察知している、と思うのです。

先日も、イシブカツで石造センパイと蒲生郡日野のあたりを取材して、車を走らせているとき、「ハッ」と気配を感じました。
かぎや「む…」

そう唸ってスピードダウン、きゅいっと左に折れて駐車場に入ります。

「むとさん、ひょっとして…」
「はい。ちょっと寄ってもいいですか?」

石造センパイは、こういうシチュエーションに慣れてます。森の中でイキモノを見つける才能と、カントリーサイドで美味しい和菓子を見つける才能を、私が持っていることを知っているのです…。

お店に入ると、おおお!

当たりです。作り立ての上生菓子だけで10種類ほど。そのほかに、見たことのないこれこそこの地方のお菓子だ!と思うものを3種類発見。

いそいそと購入して、次の場所に行っておやつを食べよう、ということになりました。

イシブでむかったのは、蒲生氏郷で有名な蒲生氏ゆかりの場所。蒲生氏郷のおじいちゃんのおじいちゃんである蒲生貞秀(さだひで)のお墓です。
anko20140616-1見てください、この素晴らしい田園風景を!!
このあたりの風景、戦国時代とあんまり変わってないんじゃないかなあ。
これが蒲生氏の原風景ってやつなのではないでしょうか。

ちょっと右寄りの上のほうに赤い屋根の小屋がありますが、その左上あたりにこんもりとした部分があるのわかります?ここに貞秀さんのお墓があり、こちらの基礎部分に彫られたレリーフをみたくて、足をのばしたのです。そのお話はまた追ってですが、お参りを済ませた後、お墓の手前の木陰で包みを開いておやつタイムです。

いがまんじゅう これです~!!「いがまんじゅう」です~!

いがまんじゅうと言えば、我が郷里・埼玉県にも「いがまんじゅう」がありますが、なんと近江の地で同じようなおまんじゅうに出会うなんて!

それにしても美味しそう。あんこの入った柔らかいお餅の周りにもち米をくっつけていっしょに蒸している感じですね。ちなみに埼玉のいがまんじゅうは、小麦粉のおまんじゅうの上にお赤飯を乗っけていっしょに蒸すので、ちょっとちがうかな。
いがまんじゅうお餅はふわっとスルッともちっとしててものすごく上質。あんこはとってもジューシーなこし餡です。甘味も控えめで上品ですがきっちりアズキの風味が生きています。これだけでも美味しいと思いますが、これまたちょうどよい塩気をまとったもち米がそこに違う食感として入ってきたら、もおお!!

そりゃ美味しいですわ!

そして、この赤(ピンク)と白の色が可愛い。ふだんはこの組み合わせなんだそうですが、お葬式なんかでは白と黄色をお出しするんですよ、とお店の人が言っておられました。ちなみに味は同じです。

いや~、ほんとにこのいがまんじゅう、一気に3個はぺろりと行けますよ!

めちゃくちゃ美味しかった!!

ところで、このかぎやさん、このほかにも4種類いただいてみましたが全部美味しかった。なので、数回に分けてこちらでもご紹介しちゃいます。

いやあ、本当に見事な和菓子屋さんです。お店の方もあったかくて素敵だったしなあ。こういう出会いがあるから、旅はやめられません!

かぎや菓子舗
http://tabelog.com/shiga/A2503/A250302/25003922/