About 武藤 郁子

神仏・聖地探訪家。編集者兼ライターとして神仏や聖地、歴史や自然をテーマに活動中。著書に『縄文神社 首都圏篇』(飛鳥新社)、『縄文神社 関東甲信篇』(双葉社)、共著に『今を生きるための密教』(天夢人)がある。2024年6月『空海と密教解剖図鑑』(エクスナレッジ)を上梓。

イチローさんの会見を見て~本当に強い人は優しい~

突然ですが、イチロー選手が、引退を表明しましたね。

引退会見もよかった。私は、その存在感に改めて圧倒されました。

会見の中では、記者の質問を、時にばっさり切り捨てていましたが、それでも、何ともいえない優しさ、他者へのいたわりのようなものを感じました。

イチローさんというと、求道者といったイメージがあります。彼の振舞いには、道を志す人ならではの深い精神世界を感じずにはいられません。彼に「武士道」の面影を感じる人も多いでしょう。私も彼を見ているとどうしても、「武士道」を連想してしまいます。実は、イチローさんの記者会見を見ていると、どうしても連想してしまう人がいます。私が幼い時に憧れ、短い期間でしたが可愛がっていただいた、剣道家の楢崎正彦先生です。

楢崎先生がものすごく強く、偉い人なんだということは、先生のお立場や9段という段位からしても、わかっていました。また、子どもの目から見ても、そりゃもうすごかった。「強烈な強さは、美しさと同意なんだ」と、私は思いました。それはもう、本当にすべてが美しかったですからね。

しかし、「美しい」ことは、「こわい」にもつながります。今その時のことを分析してみると、圧倒的な「気」みたいなものを発散されていたのかもしれません。側に行くなんて、とてもとても。こわいんですよ、それは。

当時、ちょっと問題のある環境にいた私を、先生は不憫に思ってくれたんでしょう。特別に大人の先生方のお稽古の末席に加えてくださって、週に一度稽古をしてくださいました。稽古の時には、必ず「さあ、来なさい」と呼んでくださるので、怖いですけど、側に行かなければなりません。

その時の心境を説明すると、「虎の前に立っているような気分」でした。虎ってものすごく美しいですよね。でも、ものすごく怖い。そんな感じです。そんなにもこわがっているくせに、私が先生を慕ったのは、その「優しい目」ゆえでした。涼しげな眼差しには、いつも茶目っ気と微笑みが漂っている、そんな目をしていました。先生に稽古をつけていただいてからもう30年経つというのに、あの優しい目は今も忘れられません。稽古は厳しかったですけど、いつもあの優しい目が、私を見守ってくださった。

本当に強い人は、優しいんだ。

私は、そう思っていました。実は、イチローさんの記者会見を見ていて、私はそのことを思い出したんです。イチローさんの目も優しいな、と。

イチローさんも、そもそも天性の才を持っておられるとは思いますが、とてつもない苦労と、努力をしてこられたでしょう。あれだけの選手ともなれば、野球の分野だけのご苦労ではないと思います。こころない批判にさらされたこともあったでしょうし、裏切りにもあったかもしれない。私たちには見えない部分で、きっとそんなこともたくさんあるんだろうと思います。ではないと、あんな優しい目にはならないんじゃないかなと思うんです。苦しみを知っているから、ほかの人へのいたわりや優しさを持っている。あの優しい目は、そういう目です。

大人になってから、楢崎先生がB級戦犯として死刑を宣告され、巣鴨に収容されていたことを知りました。先生が観てきた世界とは、私には想像できないほど過酷なものだったはずです。その果てにあの優しい目があったんだ、と何かものすごく腑に落ちるものがあります。

そんな楢崎先生と、イチローさんが重なるんです。野球と剣道の違いはありますが(ちなみに楢崎先生も、剣道界ではだれもが知る伝説的な剣士です)、イチローさんは、世界中の野球選手から尊敬され、憧れられている特別なひとだと言います。それはとても分かる気がします。あの、「本当に強い人」特有の、茶目っ気たっぷりの優しい目で見つめられたら、ひとたまりもない。天才肌で誰のいうことも聞かないような強い生き物――まるでライオンや虎のような選手でも、コロンと猫のようになってしまうのではないでしょうか。

これからは「人望がないから」なんて冗談はいわずに、ぜひ、監督でもなんでも、人を導くひとになってほしいなあ、と勝手に願っています。ただそこにいるだけでも、その姿を見るだけでも、勉強になるような人です。

特に、子どもにとって一番素晴らしい教育とは、本当にすごい人を見ること、知ることなんじゃないかと私は思います。「あんな大人になりたい」と思える存在がいるということは、何よりの教育です。イチローさんは、まさにそんな人。イチローさんがこれからどう生きていかれるか(にわかファンで恐縮ですが)ワクワクしてしまいます。

あ。

ところで、今気づいてしまったんですけど、イチローさんと私、同い年でした^^;。な、なんと…。こんなにも差があるなんて、びっくり。でもまあ、私は私ですよね!? 頑張って生きていきます。

(むとう)

■以下の動画は、ネット上にある楢崎先生の唯一の動画かも。楢崎先生と同じく9段の谷口先生の対戦を見られるなんて、ほんとうにありがたい。youtubeありがとう!

BE-PAL.NET連載「文化系アウトドアのススメ」まとめ①修験道の始まりの場所「大和葛城山」

お久しぶりです!

だいぶアップしていなかったですが、私は元気です。

FBなどでは頻繁に更新してるのに、自分のサイトの「日誌」ではほとんど日誌を書いていない、というこの状況を、ちょっと改めます。今後は、日誌代わりにこちらに書いていこうと思います。

さて、仕事のご報告も兼ねてですが、昨年年末からアウトドア雑誌『BE-PAL』さんのwebで連載を始めました。

連載と言っても不定期連載。でも内容は結構濃くて、三回に分かれていたりするもんで、繋がりがわからなくなっちゃうよという、知り合いの感想があり。テーマごとに、こちらでもまとめをつくっておこうと思い立ちました。

だいたいひと月に一度、テーマが変わるように執筆してるんですが、最初のテーマは「大和葛城山」でした。

秋の大和葛城山は、きれいでしたよ~!上の写真は、サイトではアップしませんでしたが、やたらとはしゃぐ私です。

さてさて、第一回は、こちら!「大和葛城山の山麓をゆく」

第二回!「大和葛城山の頂で「国見」気分」

第三回!「修験道の祖・役小角を妄想してみる」

…というわけで、新連載はいきなりの修験道の始まりの場所、大和葛城山から役行者レポートでスタート。

アウトドア雑誌のWEBに、この内容でいいんかいな、と回を重ねるごとに思いますが、でもまあ、担当編集Nさんがいいと言ってるし、いいか。と腹をくくっています。

ぜひ、未読の方がいらっしゃいましたら、覗いてみてくださいね~!

(むとう)

おかげさまで累計83万部突破!待望の第12巻、ついに発売。『本所おけら長屋(十二)』/畠山健二著

編集のお手伝いをさせていただいております、『本所おけら長屋』シリーズ、満を持しての第12巻がついに2/8(早いところですと2/7)に発売になります!!

本所おけら長屋(十二) (PHP文芸文庫) 

オビには「80万部」とありますが、校了後も着々と重版を重ねまして、この記事原稿を書いた時点で、82万部を突破しておりました。さらに嬉しいことに、昨日(2/5)発売前重版がかかりまして、現在83万部(実は四捨五入すると84万部!!)になりました。いやほんともう勢いが止まりません!

「100万部、今年必ず実現させます!」

PHPさんの営業ご担当の皆さんが、鼻息荒くおっしゃってくださってますが、これはいけるんじゃないでしょうか!?
(営業部の皆さんの気合は本当にすごい!東京メトロに展開するために作ったというシールを私もいただいたので、オフィスの書棚にセットしてみましたよ。)

時代小説家として、まさに快進撃を続ける畠山先生。実はこのシリーズが、初めて執筆された時代小説なんですよ。それがいきなりこんなヒットシリーズなんですから、本当にびっくりですよね!?

びっくりなんていってしまいましたが、実際に本書を読んでいただけたら、その人気っぷりにも、納得していただけると思います。1冊につき4篇から7篇の連作短編がラインアップしているのですが、その全てが練りに練ったネタで、しかも書下ろし・初出のお話なんですから。その気迫たるや、ただ事ではありません。

気迫は、そのまま作品の凄みになっていると思います。凄みなんていうと、怖そうですが、スルッと作品世界に入って、まるでそこに暮らしているかのようにおけらの世界を楽しむことができます。私は、素晴らしい小説というのは、「読者が本を読んでいることを忘れてしまう」作品だと思うのですが、『おけら長屋』はまさにそれです。

第12巻も、もちろんそんな作品のオンパレードです。そして、ますます円熟味を増してきてます!

今回の裏テーマは何ですか?と先生に伺ったら、「女の意地だね」とにっこり。

先生が描き出す「女」は、本当にかっこいいんですよね。おけら読者の皆さんは、ここで大きく頷いてくださると思いますが、そりゃもう気もちのいい、粋な女がたくさん登場します。今回の作品にも、そんな女たちの活躍が縦横無尽に語られています。

ぜひ、お手に取ってみてくださいね!!

(むとう)