『本所おけら長屋』/畠山健二著

入院前に、校正読みをお手伝いさせていただいた一冊をご紹介します。入院してしまったために校了作業のお手伝いまでできず、N編集長にはとてもご迷惑をおかけしてしまったので、個人的には申し訳ない気持ちでいっぱいなのですが、なんといっても素晴らしい作品ですので、こちらでもご紹介させていただけたらと思います。

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私は、ちょっと元気がないときに「時代小説」を好んで手に取ります。

最大限弱っているときには、山本周五郎さん。
人間関係に嫌なことがあったりして元気が出ないときは、池波正太郎さん。
センチメンタルな気持ちになっているときには藤沢周平さん。
自分に元気(喝)がほしいときには隆慶一郎さん。

時代小説を書かれる小説家の先生というのは、どうしてこんなに「人間」に詳しいのでしょうか。人生の厚みみたいなものを教えてくださいます。

さて、今回ご紹介する『本所おけら長屋』も、そんな時代小説の一つです。

著者の畠山健二さんは、もともと演芸作家としてご活躍されている方だそうなので、台詞回し、掛け合いが絶妙に楽しい。下町・本所の江戸っ子たちの人情溢れるお話の数々は、「人間賛歌」に満ちています。

細かく好きなセリフなど書いてしまうとネタバレになってしまうので、控えますが、たくさん好きな言葉があります。そして何と言っても、かけあいの呼吸が絶妙。空気感と言いましょうか。
うううん。たまりません!

そうですね、これは…。「いやなことがあってしょぼんとしている時」に読む本に決定!
この本を読めば、きっと、私も頑張ろう、と顔をあげてにっこり笑えるんじゃないかと思います。

ぜひ、お手に取ってみてください!

『今こそ知っておきたい「災害の日本史」』/岳真也 著


少々久しぶりになってしまいましたが、お仕事のご報告です。
一部編集のお手伝いをさせていただきました、『今こそ知っておきたい「災害の日本史」』をご紹介させていただきます。

なんと、640ページですよ!驚愕のボリューム!
企画者のN編集長は、途中からちょっと涙目になっておられましたが、さもありなん、というボリュームです。普通の文庫の二倍はありますから。
もちろん著者・岳先生のご苦労は推してしるべしです^^;。「よく考えたら普通の本の3倍だもんねえ」と冗談交じりに苦笑されておられたのが思い出されます。

内容をちょっとご紹介しますと、7世紀の白鳳地震から現代までの日本の災害を網羅してまして、本当に大変な労作です。
ただ、こういう災害があった、というデータ本ではありません。
「災害によって政治が変わり、歴史が動いた」ということを、改めて皆さんにお伝えできたら、ということが本企画のキモなのです。また、日本が「災害大国」であるということ、そのことを「知る」ということの重要さを皆さんにお伝えできたら、と…。

「この辺りでは地震はないよ」
「津波は来ない」
そんな思い込みから被害が増大した例も多く紹介されています。

「災害は忘れたころにやってくる」とよく言いますが、本当にそうですよね。だからこそ平時の時に、自分が住んでいるエリアで、かつて何があったのかを一度調べてみるといいんじゃないか、と思います。
その「かつて」は、1000年単位で考えてもいいんじゃないかと思うんです。人間にとっては長い年月かもしれませんけど、地球にとっては一瞬の時間ですから。

東日本大震災発生から二年を経過しましたが、その後も余震は続いてますし、原発の問題もありますし、まったくもって「終息した」とは言えない状況だと思います。

本書は、もう一度この状況を考えるきっかけにもなるんじゃないか、と思います。ボリュームはすごいですけど、ご興味のあるエリアだけとか時代だけを抜粋読みしていただくのでもよろしいかと^^。ぜひお手に取ってみてください!(むとう)

『名工と若き職人がつなぐ心と技』/柴田敦乙著

先日お仕事をさせていただいているオーダー家具会社で、「魂のある」木工職人さんを求人していました。
社長さんととお話ししていたら、あ、そういえばとっても有望な伝手があるじゃないの?!と思いだしたのが、「京都伝統工芸大学校」。もう8年前になりますが、本書を担当させていただいたことが、伝統工芸の世界に引き込まれてしまうきっかけになったんです。

本書を作った時のことは、今も、ありありと思い出せます。
当時はまだ大学部はなく専門学校だけだったんですが、京都から30分ほど電車で行ったところ、山間部の広々とした土地に、ドドーンと立派な建物が立ってました。

京都伝統工芸専門学校(通称TASK。当時)は、伝統工芸の技術を教えてくれる学校。
特に、工芸界のサンプルメイカー的立場である京都伝統工芸の技術を教えてしまう、というのだから、大変話題になりました。一子相伝みたいな技術を教えちゃうんですもの。かなり反対もされたらしいです。でも、当時、継承者の問題は各地で深刻化していました。
ものづくりのお仕事は、どうしてもハードなものです。効率を上げるわけにもいかない、手間はかかるけど、原材料代は高い、工賃は決して高くない…。楽なお仕事も多々ある今の世の中、生半可な気持ちでは続けられません。なので、各地でその地方の宝でもあるはずの伝統工芸は継ぐ人がいなくて大変な状況になりつつありました。

とはいえ、やりたい人はいるんです。でも、一子相伝といった感じで受け継がれてきた伝統工芸の世界と、なかなかつながることができないんですね。
そこで、経産省が支援する形で立ち上がったのがこの学校だったんです。

とと、なんだか話が長くなっちゃいますね。ちょっといきさつは端折りまして…
##以前、ほぼ日さんでも寄稿させていただいたことがあるので、ぜひこちらのリンク先をごらんください!(「ほぼ日「編集者は知っている」)

本書では、各専攻の先生と、在校生、また卒業生にお話を聞き、一冊の本にまとめるというものでした。
先生、というのは、第一線で活躍されている伝統工芸士の方。これがまたTASKの素晴らしいところで! 超ど級のプロフェッショナルから、懇切丁寧に最高の技術を教えてもらえちゃうんですもの。これ以上の教育はありません。

この時に出会った、先生方は、本当にすべての先生がめちゃくちゃ魅力的でした。
わたしは単なる取材者でしたが、そんなわずかな時間でも、美を追求する感性、厳しさ、思いやり、優しさ、世界観…様々なことを学ばせていただきました。

久しぶりに、本書を手に取り、著者、柴田さんの文章にも酔いしれました。
柴田さんの文章がまた素晴らしいんです!!
緻密な構成、しっかりとした背景把握でものすごい安定感を感じさせながら、人間っていいなあ、そんな感動が行間からビシバシ放射されています。人間礼賛!

ぜひ、お手に取ってみてくださいませ!