異色コラボ!戦国ファンタジー小説『ヤタガラス』/豊田巧著・カズキヨネ画

昨年はアニメ化も果たした人気ラノベシリーズ『RAIL WARS! – 日本國有鉄道公安隊』などものされている豊田巧先生と、『薄桜鬼』など大ヒットゲームの原画やキャラクターデザインで大人気のカズキヨネ先生が異色のコラボ。

実は企画が起こってから二年ごし。
お忙しいお二人ゆえに少々お時間がかかりましたが、どうにかこうにか無事、出版していただくことができました。

さて、歴史ものは初めてという豊田先生ですが、リキを入れて取り組んでくださり、本格な戦国ファンタジーにしていただきました。そしてそこにさらなる躍動感を吹き込んでくださったのが、カズキヨネ先生です。

このカバーをご覧ください。
20150127-2美しく強い、しかしどこかガラスのような繊細さを感じさせるこの瞳…。
これこそまさにカズキヨネ先生にしか描き出せない「孫十三」像なのではないでしょうか。

ここで、簡単に内容をご紹介いたしますと…。

時は戦国、乱世の時代。桶狭間の戦いの少し前からお話は始まります。
主人公の雑賀孫十三は、天才的鉄砲撃ち。相棒の四郎はこれまた天才的な鉄砲鍛冶で、暗殺稼業をして諸国を行脚しています。金にはシビアな二人なのですが、実はそれには理由があり…。

キリスト教信奉者となった孫十三の姉、カタリナの「弱者でも平和に暮らしている平和な世の中をつくる」という夢をかなえる手助けをしようとしているのです。しかし…。

今回は全部で4話。明らかにされたこともあり、しかし新しい謎も現れ…。この4話でも十分楽しんで読んでいただけると思いますが、今後の展開をつい期待したくなってしまう内容になっております。

ぜひ皆さん、お手に取ってみてください。

(市森むべ)

「疾風に折れぬ花あり」(中村彰彦著)第17回「蚕とともに」掲載!

さて、この二月号で17回目を数えます本連載。ご紹介しそびれてしまった(^^;)15・16回と一緒にご紹介させていただきます。

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信玄の末娘・松姫さんは、武田家滅亡後は武蔵国は八王子にて出家し、信松尼と名乗っておりますが、いよいよ自立の道を確かなものにするであろう事業「養蚕」をスタートさせます。

松姫さんこと信松尼さんは、当時でも血筋も抜群に良く、お金持ちだった家に生まれ何不自由なく育ってきたひとです。
しかし20歳をすぎていきなり一族が根絶やしになってしまった。
自身の命の心配もあるほどの状況なのに、さらに3歳・4歳(今風に言えば2・3歳)の姪っ子たちを3人も形見として預かってます。変則的ではありますが、今風に言ったらシングルマザーですよね。

もちろん、名門のお姫(ひい)様たちですから、乳母やおつきの人もたくさん一緒についてきてます。そういう意味では、今風のシングルマザーとはちょっと違いますが、逆に、それだけ多くのひとたちがいるということは、経済的に支える責任があるわけで、その手立てを考えなくてはならないのですから、かえって大変です。

なので、これまでは信松尼さんのもっとも大きな心配事は、三人の養い子を立派に育て上げること、そしてついてきてくれている家臣の皆さんを飢えさせないということだったのですね。

そこで思いついたのが「養蚕」でした。つまり『絹』ですね。当時『絹』は大変高価なものでした。

実際、今回先生がお書きになるためにと、私も資料を集めたり読み込んだりしてみたのですが驚きました。高価なのもなるほど、というほど手間がかかるんですね。

一つの繭からとれる生糸はごくわずか。布一反作るのに生糸が900グラム必要だとされているのですが、この900グラムの生糸を得るためには約2600粒の繭が必要なんだそうですよ。2600頭のお蚕さんが必要ってことですよ!?

それだけでもすごいと思いますが、この数字は品種改良された現代のもの。明治以前のお蚕さんは、繭の大きさが現在の半分しかなかったそうなので、単純計算すると5200頭ものお蚕さんが必要ということになります。

そりゃもう貴重ですよね!?

それだけ貴重なもの、そしてみんなが欲しがるもの、それは需要と供給の関係で高価になるのは当然なことです。

信松尼さんが暮らす、八王子のあたりは、もともと養蚕が盛んなお土地柄だったこともあり、信松尼さんの思いつきはごく的を得たものでした。

しかし、養蚕に詳しい人物にレクチャーを受けて、信松尼さんは、気づきます。養蚕で利益を得るだけの量を生産するには、広い場所と道具が不可欠であることを。

ここでまた資金不足、ということで立ち止まりかけたのですが、運がいいことに八王子代官所の代官頭・大久保十兵衛が援助を申し出ます。

十兵衛さんはもともと武田家に仕えていた人。自分が赴任した地に、元主家のお姫さまが出家して隠棲していることを知り、なんとしても身を立てられるように助けて行こうと、動いてくれるようになります。

今風に言えば、起業しようとした女性(信松尼さん)、アイデアはいいけど資金不足。そこに資金提供者が出現、起業にこぎつける…。そんなかんじでしょうか。

そして、今回は、実際に養蚕を行う様子が詳らかに描かれます。

ここまで丁寧に江戸時代の養蚕の様子を描き出す小説はほかにないんじゃないでしょうか。さすが中村先生です。
信松尼の不安やとまどいや、挑戦することへの喜びなども丁寧に描かれます。今の私たちがみても、すごく共感する内容になってます。どの時代でも、挑戦するってこういうことなんだなあ、と。

ぜひお手に取ってみてくださいね!

(むとう)

「疾風に折れぬ花あり」(中村彰彦著)第14回「陣馬街道 その二」掲載!

武田信玄の末娘・松姫さんこと、現在出家して信松尼(しんしょうに)さんが主役を務める「疾風に折れぬ花あり」。

前号で、信松尼さんを経済的に援助してくれていた北条氏照(うじてる)が城主を務める八王子城が、落城。殲滅、つまり皆殺しにされてしまいました。

そして、今号ではいよいよ、本拠地小田原城は、あまりに巨大な秀吉軍によって包囲されて、当主・氏直は降伏、北条家は滅亡してしまいます。
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武田家のお姫様であった信松尼さんにとって、北条家は縁戚であり、また、八王子に移ってからは、経済援助をしてくれた大切な人たちでした。

それが、あっけなく滅亡してしまった……。心情的悲しさだけでなく、現実的な危機でもあります。今や援助の道は絶たれてしまいました。幼い姪たち3人だけでなく、彼女たちを慕って仕えている家臣たちを養わなくてはならないのです。

いよいよ「自立」の道を確立しなければならなくなったわけです。そこで、信松尼さんが思いついたのは「機織り」でした。つまり養蚕、絹を生産すること、です。

古代から、信松尼さんが住む八王子がある武蔵国(今の東京都・埼玉県一帯)や上野国(群馬県)は、絹の名産地でした。そのため、彼女がそういう風に思いついたのはとても自然なことでした。

今でも上州(群馬県)名物として、「かかあ天下とからっ風」なんて言います。

これは、上州の女性は働き者で強いということなんですけど、女性が養蚕をしていたので、女性のほうが収入が大きくあったことで、経済的自立をしていたので、強いというわけなんですね。

そして、この「養蚕」ですが、これまた古来より女性の仕事と考えられていました。

蚕を育て、糸をとり、機を織る、という仕事は、手先の細やかな女性のほうが向いていたのかもしれませんね。この大変な作業の果てに生み出される「絹」は大変高価なもので、これを生み出すことができるというのは、相当な経済力を持っているということ。家庭内でも大きな権力になったろうと思います。

そんなわけで、目の付け所はすごくよさそうなんですが、果たしてうまくいくのか否か…。

歴史小説、というとらえ方でなく、現代に引き寄せてみると、信松尼さんはまさにベンチャー起業家ともいえるかもしれませんね。

詳しくはぜひ本誌をご覧くださいませ!

(むとう)