愛犬との生活は悲喜こもごも。本当の「人生の豊かさ」って!?『愛犬と「幸せ家族」になる方法』/安藤一夫著(PHP文庫)

犬の気持ちをちゃんと受け取り、人の思いをちゃんと伝えるために
思いを込めて編集を お手伝いさせていただいておりました『愛犬と「幸せ家族」になる方法』という一冊が、いよいよ本日発売になりましたのでご報告させてください!

著者の安藤一夫さんにとって、本書は処女作。

安藤さんのプロとしての的確なアドバイスはもちろんのこと、そのお人柄のチャーミングさ、そして愛情深さをできるだけ率直に読者の方に体感いただけるように出来たらいいな…と願いながらお手伝いさせていただきました。

安藤さんは、大阪は豊中市でドッグサロンを経営されてる「犬のプロフェッショナル」。そして、ご自身も三匹のわんちゃんの飼い主さんでもあられます。
だからこそ、犬の気持ち、飼い主の気持ち、両方がとてもよくわかっておられるし、「意外と勘違いしてること多いねんで」とおっしゃいます。

「犬の気持ちをちゃんと受け取れるように、飼い主さんの言いたいことも、ちゃんと犬たちに伝えられるようにできたらええなあ」
最初の打ち合わせの際、安藤さんはそんな思いを話してくださいました。

「そばで見てると、ようわかんねん。本人たちが幸せならもう何もいうことないんやで、もうそれでええやん。せやけど、ちょっとしたことでもっともっとお互い楽になって幸せになれる、思て…」

大好きだからこそやってしまう「読み違い」「勘違い」。
ある、あるなあ、ありますよね!?
これって実は、犬と人の間だけで起こることでもないですよ。人と人の間でも「読み違い」は起こります。こんな読み違いは、長年連れ添った夫と妻の間にも、あったりしますよね。

安藤さんは、時に人間同士の例を巧みに上げつつ、犬の気持ちが本当はどうなのか、飼い主の思いはどう伝わっているのか、を笑いたっぷりに解き明かしてくださいます。

20151104-1

面白い。でも涙が止まらない!
そして、本書の真骨頂は、思いもよらぬ部分で現れました。
安藤さんは、関東生まれの私などからしたら「笑いのエリート」。大阪の笑いとはここまで計算されたものなのか!?すごすぎる!…と思っていたので、本書の個性は、「犬のことをちゃんと学んでいけるのに、大笑いしながら読めてしまう」という点じゃないか、と思っていたのです。

ところがところが…

PART5で、「老犬介護」についてぜひ書いてください、とお願いしていたのですが、それまですらすらと書き進めてくださっていた、筆が止まってしまいました。

「ごめん、武藤さん。書かれへん。考えるだけで辛い」

安藤さんは、身体の大きな、いかにも男性らしい方なんですが、同時にとても情にあつくて涙もろい、優しい方なんです。
私たちがそんな風にお願いしたとしても、犬のケアのプロフェッショナルとして感情を切り離して言葉は悪いですが無難にさらっと書くこともできたはずです。でも、そんなこと、安藤さんにはできないのです。その気持ちが、すごくよく伝わってきました。
だけど私も編集長も、だからこそ書いてほしいとお願いしました。「そのつらい思いは、全飼い主さん共通の思い。それは絶対に読者の皆さんの心に響く」。そう感じたからなのです。

辛いとおっしゃる著者に、私たちも酷なことをお願いしていました。でも、安藤さんはまさに身を絞るようにしてPART5を書き上げてくださいました。そしてできあがったPART5は、簡潔ながらもぐっと心をつかまれる、本当に素晴らしい章になったと思います。

そして、ダメ押しはエピローグ、そしてあとがきです。

安藤さんは、「エピローグ お別れの時」で、突然逝ってしまった愛犬しじみちゃんのお話を書いてくださいました。その時の恐怖感、絶望感。もっと何かしてあげられたんじゃないか……、という後悔の念。
その大きな悲しみは、犬を同じように失ったことのある私、さらには犬を飼ったことがないという編集長の心をも激しく揺さぶりました。

一応、私たちは「読む」プロです。ですから、もう少ししっかりと、冷静になって読まなくちゃ、と思うんですけど、どうしても、何度読んでも涙が湧いてきてしまうのです。

「何度読んでも、涙が出ちゃうよ~」

N編集長がそうおっしゃっていたのが、本当に印象的。そして、それを聞きながら私までもらい泣き、さらに安藤さんにお伝えしながら二人で大泣き……なんなんでしょうか。これは!??

私は本書を担当させていただいて、犬たちだけでなく多くの方々と、心を込めて関わっておられる安藤さんの「豊かな人生」を感じました。

愛犬との生活は悲喜こもごも。一緒にいる喜び、いなくなってしまったことへの悲しみ。
豊かな人生とは、そんなたくさんの思いをたくさん経験していくことなんじゃないか、そう思いました。そしてともに味わう存在がいるとなお深いんだなあと。その存在というのは、犬でも人でも同じことですね。

ぜひ、皆さんにもお読みいただき、そんなことも考えてみてくださったらうれしいなあ、と切に思います。
ぜひぜひ、お手にとってみてくださいまし!

(むとう)

 

おけら長屋のお節介は、ついに幽霊にまで!?巻を重ねてますます絶好調の大好評シリーズ第五弾登場!『おけら長屋(五)』/畠山健二著 

2013年7月からスタートした大好評シリーズ『本所おけら長屋』。3月と9月、年に二回のペースで刊行を重ねまして、ついに第5弾の登場です!

私も第二巻より、編集のお手伝いをさせていただいておりますが、回を重ねるごとに、先生の筆は冴えわたり、すっかり自分自身も、お江戸・本所に実在する人情長屋にいるような心地になっております。
20150911

毎巻、「裏テーマ」を決めるとおっしゃる畠山先生。
今回の裏テーマはと言うと「ファンタジー」とのことなんですね。
どういうことかと申しますと、今回はちょっと不思議な出来事が物語を動かすキーになっているのです。
例えば、第一話「ねのこく」では、幽霊が登場しますし、第4話の「まさゆめ」では、夢の中で起こったことが現実に影響して…、といったかんじです。

拝読していて、さすがだなあ、と感心してしまいますのが、おけら長屋の連中にかかりますと、幽霊までお節介の対象になる、ということ。
最初はこわがってるんですけど、だんだん幽霊の身になってしまい、「どうにかしてやろう」となるのです。そこがまたたまらなくいいんです。

そして、今回も女性読者に大人気の、「殿様」こと、津軽高宗さんも再登場しますし、どのお話しも素晴らしく面白いのですが、私が特に好きなのは、第五話「わけあり」です。
第4巻の最終話「あやかり」で登場した、めちゃくちゃかっこいいお婆さん「お熊さん」が、再登場するんです!

先生が描く女性は、かっこいい人が本当に多いと思うんですよね。気風が良くて、思いやりがあって、かわいらしい。お熊さんも、まさにそんな女性です。
お熊さんの生業は「金貸し」です。でもただの金貸しじゃない。貧乏人に貸す金貸しなんです。ほとんど利子もつけないし、回収し損ねることも多いように思える、お熊さんの金貸し。
なんでそんなことができているのかが、今回明らかになります。そして、お熊さんがどんな人生を歩んできたかも……。

人生、決して良いことばかり起こる訳じゃない、でも、やっぱり精いっぱい生きるっていいなあ、人間っていいなあ、と改めて思えるお話になっているように思います。

「どの話が好き」が、人によって分かれるのが『おけら長屋』の真骨頂。皆さんも、ぜひお手にとっていただき、好きなお話を見つけてください!

(むとう)

「生きている、それだけで奇蹟」。――命・心・魂の問題を問い続けてきた著者、渾身の講演集!『自分という奇蹟』/五木寛之著

五木寛之先生の新刊をお手伝いさせていただきました!!N編集長、いつもありがとうございます~!

五木先生のご本は、『私訳 歎異鈔』を文庫化するときに一部お手伝いさせていただいたことがあるのですが、書下ろし〔語りおろし〕で初出で…という形のご本を担当させていただいたのは、今回が初めてです。

20150902

今回のご本は贅沢にも「いきなり文庫」にて登場!

通常、単行本にしてから文庫に、ということが多い中で、いきなり文庫での刊行は、五木先生とN編集長の御英断の賜物でしょう。
文庫は、単行本と比べて価格も半分以下。読者にとってはとても手に入れやすい形態ですから。お値段もお手頃にして、ぜひとも多くの方に手にとっていただきたい、そんな思いがこもっていると思います。

本書は、講演で語られたことを文章に起こして、さらに再編集したものですので、先生の柔らかい語り口を感じながら読んでいただくことができ、かなり読みやすいかと思います。

先生は、講演の名手としても知られますが、本書には「なるほど」とうなづいてしまうような言葉やエピソードの数々がちりばめられています。
特に本書で重ねておっしゃっているのが、「光と影のうちの『影』の部分~悲しみや不安、絶望、涙~を、人として、もっと自然に取り戻してもいいのではないか」といったこと。
「日本人は古来、よく泣く民族だった」というエピソードや、昭和初期まで文豪たちが好んで使っていた「暗愁(あんしゅう)」という言葉を例にあげながら優しく説いておられます。

そして、さすが、そこからがまた五木先生ならではなのですが、

「平凡に生きる人も、失敗を重ねて生きている人も、世間の偏見に包まれて生きる人も、生きていることにまず価値があり、どのように生きていたかなどは二番目三番目に考えていいことなのではないでしょうか」

と、存在を全肯定する言葉を紡がれます。
これまでの先生の波乱万丈な人生を想像するに、この結論に至った先生のご心境と言うのは、計り知れない奥深さがある、と思うのです。

もし、生きていることに漠然とした不安を感じている、自分は価値のある人間なのだろうか……そんなことを少しでも思うことがあったなら、本書を手に取ってみていただきたいと思います。

先生は、ひとつに決めつけるようなことは決してされません。
ですから柔らかく、包み込むように(……時にその優しい言葉が、グサッと鋭く胸に刺さって取れないような気がしてくることもありますが)、読み手の存在をそのまま受け止めてくれるような、そんな大きな一冊になっているのではないかと思います。

ぜひ、お手に取ってみてください!!
(むとう)