先日、大学時代の友人たちと久しぶりに会ったときのこと。
途中までは、のほほんと「いや~、みんな若いよ、変わらないね~」なんて、ちょっと余裕のある大人発言を機嫌よく繰り返しておりましたが、後半、なぜだかみんなで卒業アルバムを見始めて以降、すっかり酔いがさめました。
すっかり忘れておりましたが、私が通っていていた大学は、皆さん育ちがよく経済状況もよく、「綺羅の空間」だったんです。
そんな中で、私は「醜いアヒルの子」。きれいな人たちの中で、呆然とたたずんでいた、というかんじだったんですよね。
しかし、あまりにかけ離れると、嫉妬など浮かぶ間もなく感心してしまい、心から「すごいなあ」「育ちがいいってのはこういうことなのか」と思っていたのでした。
卒業アルバムを見ていると、そんな風だったことが一気に思い出され、自分の太ってパンパンな写真を正視できず、酔いがさめると同時に、周りの女の子たちの美人比率の高さに、改めておののいたのでした。
こんな中で過ごさなくちゃいけなかったなんて、わたしって不憫。っていうかエライ。よく頑張った!と、かつての自分に言ってあげたい気持ちになりました。
それはともかく。
当時、観察していて面白かったのは、美人であるということは必ずしもいいことだけじゃないんだな、ということでした。
誰が見ても美人という子は、ちょっと敬遠されたり、あるいは今風に言うと「トロフィーワイフ」じゃないですけど、肉食系な男のひとたちにとっての勲章みたいな、「戦利品」のようになっていたりして…。だから、自分が選ぶ前に男性チームのほうで候補者を決めていて、なんとなく押されてその人と付き合ったり。まあ、「アヒルの子」チームの人間からしたら羨ましい話なんですけど、結果的にけっこう大変な目に遭ったり、幸せになっているわけでもないのを見ていて、「美人ってのも大変だわねえ」と、これまた感心していたのでした。
さて、前置き長くてすみません。なぜこんなことを思い出したかというと、毎月お手伝いさせていただいております連載「疾風に折れぬ花あり」の主人公、武田松姫さんは「白鳥チーム」のお嬢様だなあ、と思ったからなのです。
松姫さんのお母さんは血筋もよく甲州一の美女と呼ばれたようなひとでしたので、また本人も大変な美人だっただろうと思われます。そして、お父さんの信玄は、名族・甲州武田家の嫡流ですから、本当にもう非の打ち所のないスーパーお嬢様。
これまで通りでいれば、蝶よ花よと大切にされ苦労など知らずにそのまま生を追えたかもしれませんが、そこはなんといっても戦国の世。飛び切りのカリスマだった父・信玄公が亡くなってしまってから、武田家は一気に斜陽の道を歩み、ついに織田信長に滅ばされてしまうのです。
松姫は、兄たちから「生き延びて武田家の血を残してくれ」と、幼い姫たちを託されて、武蔵国へ命からがら逃げ延びます。そして、その武蔵国の八王子で、死んでいった武田家の人々を弔いたいと、髪を下ろすのですが…。
静かに暮らしたいと願う松姫の思いとは裏腹に、美女であり、身のこなしから間違いなく生まれもいいということで、周囲にその存在が知られてしまうのです。
まさに、衣通姫(そとおりひめ)。隠しようのないその存在感…。
今月号では、武田家ゆかりの女性を自分の側室に迎えたいと、女狩を始めた徳川家康配下に、ついに居場所をつかまれてしまいます。
ただ、救いなのは、ここにいる美女は「武田家ゆかりの人だろう」という推察だけであって、信玄の末娘・松姫さんそのひとだとはばれていないのです。
徳川家康の配下が、八王子の庵を訪ね、「武田家ゆかりの女性がここに入るだろう」と言ってきたとき、松姫さん改め、信松尼の家臣の皆さんは、どうにか守り通そうと考えますが、それはなかなか難しい。確かにここには「品があって美しい女性」が暮らしているということは、近辺でも有名なはなしだったわけですからね。
苦肉の策として、松姫さんの存在は伏せたまま、侍女として一緒に暮らしていた二人の女性の名前を上げます。「血筋」のものではないですけど、武田家に長年仕えてきた人たち、つまり「武田家関係の人」ということで、その名を挙げたのでした。
そしてそのうちの一人、お竹さんと、家康配下の人が面会します。すると、これまた大変な美女です。武田家嫡流の女性ではないけど、この美女ならいいんじゃないの?…と思ったからか、その後正式に「奥向きに迎えたい」と言ってきました。
信松尼さんは躊躇します。つまりこれは自分の「身代わり」。お竹さんを差し出すようなまねは…ということですね。
しかし、そこは戦国時代の武家の女性です。お竹さんは自分から「お身代わりになります」と言うのです……。
歴史上のことを仮定してもしょうがありませんが、もし、このお竹さんだって十人並の普通の女性だったら、たぶんこんなことにはならなかったような気がしますし、そもそも、松姫さんが野に隠れてしまうような地味な外見だったら、周囲のひとたちにもこんなに大々的にばれずに、家康にもばれずに済んだんじゃないか、と思うわけです。
いやはや……。
美人って大変ですよねえ!?
私がご紹介を書くと、なんとも品がなくなってしまいますが、本当は中村先生ならではの気品あふれるお話です。ぜひ本誌面をご覧ください!!
(むとう)