【若狭旅】④青葉山の東南を守る中山寺。伝湛慶作の金剛力士像がカッコよすぎる!

神仏習合の世界
日本人にとって「山」は神そのものでした。でした、というか今もその感覚は健在ですよね。

けっこう無条件に、拝みたくなっちゃいません?

空気の澄んだ冬の午前中などに、ふとビルの合間から富士山の姿を見かけちゃったりしたら、立ち止まらずにはいられません。ラッキー!って感じでテンション上がっちゃいますよね。

こうした、自然への親近感、畏敬の念というのは、自然豊かな日本の風土に根差した文化ならではのもの。私の中にもこの土地に生まれたものとして、インプットされている感覚です。

そして、そうしたお山には、その山の神を祀る神社仏閣が多く建立されました。仏教は外来の宗教ですけど、もともとあった日本の信仰とうまく融合し、神を敬い、慰め、仏としても奉りました。
この「仏としても」というとこが日本的なうまい処理ですよね。
「もともと拝んでいたうちの神さま、実は、仏教の仏さんが姿を変えて現れたものだったんだって」。そんな風に、つじつまを合わせちゃった、というのが「本地垂迹(ほんじすいじゃく)」という考え方です。

青葉山の信仰の中に

さて、今回見仏して廻っている、この中山寺・馬居寺も、このお山信仰の構造の中にあるといえます。
福井県と京都府の境に「青葉山(あおばさん)」という山がありまして、「若狭富士」とも呼ばれます。「ナントカ富士」と呼ばれる山は、単独で三角形に立ち上がっている(みえる)山で、古くからこの手のお山は聖なる山として崇敬されてきました。
20150127-3(写真:湾を挟んだ半島にある城山公園から撮影。尖った山頂が見えます。たぶんあれだ!)

また『日本歴史地名大系』によりますと、ほかに「弥山」とも呼ばれていたようなんですね。この「弥山(みせん)」という名前は、「御山」の同音同義語で、聖なる山を意味してるんじゃないかと思います。宮島の弥山、なんかと同じです。意味としては御岳とも同じでしょうね。

つまりこの青葉山、この呼び方だけ見てもわかりますね。古くから聖地だったわけです。
お山を開いたのは、白山信仰で有名な泰澄さんと由来にありますが、おそらく泰澄さんが現れる前から信仰の場だったんだと思います。ちなみに泰澄さんは8世紀に生きた偉人。この小浜を中止としたエリアに何かと縁の深い、天武帝・持統帝系譜の皇族の方々にこれまたとても縁の深い人です。

20150127-1

(写真:城山公園をおりて、漁港から撮影。しつこいですけどたぶんあれですよね?!)

そんな宗教宇宙なお土地柄なんですが、何より際立って珍しいのが、この聖地を祀るべく建立されているお寺さんのほとんどのご本尊が「馬頭観音」さんだということです。

その中で廃寺になってしまったお寺さんもありますが、南東側を守護する大寺がこの中山寺と、西南側には現在は京都府に位置する松尾寺(まつのおじ)があります。がもちろんご本尊は馬頭観音さんです。

今回は、松尾寺にはいきませんが、中山寺に拝観しますよ。まさに念願の中山寺、いよいよです!

湛慶作の仁王像がお出迎え!

20141213-10

それにしても雨はやみません。でもツアーバスなので、なんの苦労もなく馬居寺からあっという間に中山寺に着いちゃいました。いつもの私なら、かなり苦労してたどり着くところです……。文明のリキってすごいです。

こちらの山門に何気なく収まっているお像が、まずすごいですよ!

なんと、湛慶さん作と伝わる金剛力士像なんです。

20141213-11

ふお~~~!素晴らしい~~!!!

かっこい~~~~~!!

この感動を皆さんにお伝えしたいですが、私の撮影では、お像を美しく撮ることができませんでしたので、こちらにて…。

20150127-4

こちらはお寺さんにいただいた由来書きの表紙です。

いやあ、ほんとにかっこいいわあ。

湛慶さんは、皆さんもご存じ、運慶さんの長男で、運慶さんのあとを継いだひとです。
有名なお像をたくさん造像してますが、中でもとくに有名なのは、三十三間堂(蓮華王院)再興を大仏師(総監督・総指揮者のような立場)として取り仕切り、中尊の千手観世音菩薩坐像を製作しました。

三十三間堂の再興は晩年の仕事ですが、若いころにも有名な金剛力士吽形像を作ってますね。
父・運慶が惣大仏師として取り仕切った東大寺南大門の再興の時には、父の指揮のもと吽形像を伯父弟子の定覚とともに造像しています。奇しくも、この掲載されている写真も吽形。おそらくこの写真を選んだご住職はそのことも踏まえて選ばれたんじゃないかと思います。

それにしても、素晴らしいお像です。

しかし残念ながら、伝・湛慶作とされてるんですが、詳しい情報がよくわからない。なにをもとに出ている情報なのか…(どなたか、ご存じでしたらお教えください!)

しかし、これだけのお像を造像できる力量は、ただ事ではない。慶派の中でも特別な人でしかありえないと思います。

これは、想像以上ですよ!

今回、最も期待している秘仏、ご本尊の馬頭観音坐像は、ものすごいんじゃないか、…私の期待はマックスまで高まります!

(続く)

【若狭旅】③大らかでやさしい馬頭観音さん@馬居寺。写真だけではやっぱり仏像はわからない!

仏像好き必携の書『コロナブックス98 日本の秘仏』(平凡社)

さて、そして念願の馬居寺さん、中山寺さんのご本尊で秘仏の馬頭観音さんにようやくお会いできるわけなんですが…。

ここで、なぜ私がそれほどまでにこちらの馬頭観音さんにお会いしたい、と念願していたかについてなんですけども。その存在を知ったのはこの『日本の秘仏』(平凡社)という本と出合ったからです。

奥付見ますと2002年となってますから、もう13年も前なんですねええ。

20150117-1

本書が出た時の喜びときたら!日本の秘仏すべてが網羅されているわけではありませんが、これぞというものは美しい写真とともに掲載されています。そしてさすが平凡社さん、印刷がまた美しい!情報を得る、というだけではなく写真集としても大変美しい本です。

私はにやにやしながら、「日本の」ってつけなくてもええんちゃうかな、などとぶつぶつ言いながら、喜び勇んで購入。

そして、秘仏のご開帳タイミングをチェックしておりましたところ、特に心惹かれたのがこの二体の馬頭観音さんだったのです。

そのお姿の美しいことときたら!
私の目は釘付けです。

そしてさらに夢中になってしまったのは、白洲正子さんの「賛」が添えられてたからかもしれません。
本書はところどころに高名な作家さんの文章がまるで「賛」のごとく入っているのですが、この馬頭観音さんあたりには、憧れの白洲正子さんの文章(おそらく『私の古寺巡礼』からの引用)が入っているのですね。

うわあ、私も拝観してみたいなあ。

そう思いましたけども、中山寺さんは33年と17年に一回、馬居寺さんは25年と午年に一回と書かれています。おいそれと拝観できるお像ではないです。「死ぬ前に一度見れたらいいな」、私はそう思い、チェックの付箋をたてたのでした。

まずは馬居寺さんの馬頭観音さんから!

さて、前置き長いですが、それほどの思い入れのある今回の旅。
最初の目的地、馬居寺さんに到着しました(ツアーとしましては、長楽寺さん、おおい町郷土資料館を経て三ヶ所目ですが、端折らせていただきます。長楽寺さんの阿弥陀如来坐像もそれはもう素晴らしかったのですが!)。

さて、大雨の中バスでの移動ですので、周囲の様子ははっきり体感できていないのですが、とにかく山を登っていきます。

実際にはご本堂にまずお参り、が正しいですが、大雨ということで、ご本堂の上の山道までバスで送ってくださいました。とはいえ、そこからも少々歩きます。
20141213-12こちらがそのお堂。

位置関係からしますと、神社なんかで言うところの奥の院、のような感じでしょうか。ご本尊がいらっしゃるのにふさわしい場所です。

そしてさらにこのお堂の奥の保管堂にいらっしゃいます。
20150117-3重要文化財に指定されていますので、鉄筋コンクリートのお堂にお納めしないといけないんですね。

さて、この馬居寺さんですが、今でこそ普通の大きさのお寺さんですが、大変由緒正しい古いお寺さんです。お寺さんにいただいたパンフレットによりますと、開基は聖徳太子、飛鳥時代のことだそうで…、

「聖徳太子が秦川勝を伴い、甲斐の黒駒にまたがり諸国遍歴の折、若狭の和田浜を通られ休憩中に愛馬が見えなくなり捜しておられると、南の山上よりいななきが聞こえ、光明が輝いたので此処ぞ観音の霊地であるして、太子は堂塔を建立され、栴檀の香木をもって一刻三礼して馬頭観世音菩薩坐像を刻み安置されました」(パンフレットより引用)

とあります。

史実と寺伝というのは必ずしも一致しません。

こちらも、ご本尊の観音さんは平安末期の作だそうですから、聖徳太子が作ったとするには時代的に400年以上の大きな隔たりがあります。その点だけ取っても、すでに史実とは異なってるわけですね。

でも、こうした寺伝、または言い伝えというのはやはり大きな意味が込められていると思います。

こちらのお寺さん及びお像を語るとき、「聖徳太子」「秦川勝」「甲斐の黒駒」というキーワードを使っている、つまりこのワードはとても重要な要素なわけです。そこのところの意味を読み取るべきですよね。

まるで神像のようなしっかりとした存在感とかわいらしさ
さて、早速お堂の中へ。小さなお堂は、ツアー全員入りきりません。
ちょっとずつ譲り合って、しかし私は図々しくもお像の真ん前に陣取りました。

おおお…。

写真ではもう数えきれないほど拝見しているお姿です。
しかし、なんと言ったらいいのか……。

写真とはちょっと印象が違います。

20150117-2

こちらの写真(パンフレットを一部拝借して掲載させていただきます)をご覧ください。

馬頭観音さんならではの憤怒相、髪は逆立ち(怒髪)、少々いかめしい印象がありますよね。

でも実際のお像は、確かにいかめしくもあるのですが、それ以上に、大らかで優しいのです。

いわゆる地方仏、とされるものだと思います。京都で正当な教育を受けた仏師が丹念に造ったというよりは、地元の仏師がていねいに思いを込めて造った…、という感じがします。
このお像を造仏した仏師はかなり上手な方だと思います。しかし、なんとなくおもちゃのようなおかしみ・軽みがある…、あるというかそういう表現を選んでいる、という気がします。

仏さんというよりは、もともとこの土地におられた神さまの像を見ているような……。

何となく「ええよええよ、それでええ」、そんな風に温かい肯定のことばをいただいてるような気持ちになってきました。

それにしまして、ちょっとこの感想は予想外。自分としては、正直もっとおどろおどろした重たいものを感じるのではないか?と想像していたのです。むしろその逆でしたね。

これだから、写真だけではわからないんですよね。実際に拝観してみないと!

こうなってくると、中山寺さんのお像も楽しみです。どんなふうに感じるんでしょうか。

(続く)

【若狭旅】②高浜町周辺、「馬頭観音」集中地帯へ

「おおい・高浜の秘仏めぐり」ツアーに参加できました~!
さて今回の旅は、順序で言いますと…

一日目、二日目⇒小浜市内のお寺さん
三日目⇒今回のメイン目的地、高浜町の「馬居寺」と「中山寺」

といった流れで計画しました。
小浜市内のお寺さんは、もう何度もお邪魔していますので、なんといっても今回のお目当ては三日目の二か寺。
しかし、この二か寺ともに駅からも離れていて、ちょっと自力で行くのはきついところにあります。

20141219-2

こちらの地図は、観光協会でいただいたパンフレットの地図から一部拝借!

調べてみましたら、最寄り駅からレンタサイクルで15分くらいで行けそうなんですが、お天気崩れたらアウト。いろいろ考えて、今回は観光協会が主催するツアーに参加させていただくことにしました。このツアーに参加しますと、とてもレンタサイクルではとてもいけなさそうなお寺さん(長楽寺)にも行けちゃうし、お食事もついてる!一人旅にはもってこいです。

しかし、この「おおい・高浜の秘仏」ツアー、募集人数も少ないためか、私が気付いた時にはもう定員埋まってました。でも、ダメもとで、キャンセル待ちリストに名前を入れていただいたところ…。なんと! 出発の二日前にキャンセルが出たと連絡が入り、無事参加させていただけることになりました。

20141219-1

(これ↑、このツアーです!!)

いや~、本当についてました!

これで、馬居寺さん、中山寺さんはもちろん、長楽寺さんにも行けることになりました。結果的に、これはもう大正解!!

というのも当日は大雨。もし一人だったら、タクシーをお願いするにしても、タクシーがつかまらないとか、雨宿りする場所がないとかで、泣きたい気持ちになっていたと思います。

馬頭観音像が集中している「丹後富士」こと「青葉山」周辺
さて、今回、「馬頭観音」さんということばを何度も使っておりますが、馬頭観音さんがよくある仏像かというと、違う、と言っていいと思います。

江戸時代以降になりますと、民間にも広く広がり、馬の守り神、蚕の守り神などなど、様々な形で信仰され、親しみ深い観音さんになりますが、江戸以前からご本尊として馬頭観音さんを祀っているところはそう多くないのです。

それなのに、今回たずねるお寺さん二か寺は、ご本尊が馬頭観音さんです。これは相当に珍しい。

そしてこの二か寺の共通点としては、「丹後富士」と呼ばれるお山、青葉山(あおばさん)近くにある、ということ。

また、今回は福井県ではないため特別開帳などしていなかったのでいきませんでしたが、青葉山南西麓(京都府サイド)に、松尾寺(まつのおじ)さんという、大きなお寺さんがありまして、こちらもご本尊は馬頭観音さんだ、と。

この三か寺、すべてご本尊が馬頭観音さん、…ってことは、めちゃくちゃ珍しい、ってことなんですね。おそらく、全国一の「馬頭観音さん集中地帯」といってもいいんじゃないでしょうか。

20141213-12さて、そんなこんなで、馬居寺さんにやってきました。ツアーとしては、長楽寺さん、おおい町郷土史料館を廻ってから、三番目の場所です。

もし、個人で行くなら、小浜線若狭和田駅をおりて、から約1.5キロ、徒歩で20分ほどみたい。いいお天気なら歩いていけますが、大雨の中ではちょっと無理、かな。

さて、いよいよご対面です!

写真では何度も拝見してますが、実物はどうなんでしょう!?

(続く)